金メダルの内村航平が明かした苦しみ 「負けた方が楽」に込められた思い

スポーツナビ

逆転で個人総合2連覇を達成

個人総合で五輪2連覇を果たした内村は、喜びの中にも“苦しさ”をにじませた 【写真:ロイター/アフロ】

 1つの大会で優勝するよりも、勝ち続けることの方がはるかに難しい。長きにわたって王座に君臨すると、喜びを味わう分、それだけ苦しみも増幅することになる。

 内村航平(コナミスポーツ)が、リオデジャネイロ五輪の体操男子個人総合で92.365点をマークし、2連覇を飾った。これで2009年に世界選手権で優勝を飾って以来、同種目では実に8年間も負けていないことになる。しかし、試合後には喜びと同時に、これまで抱いてきた“苦しみ”も垣間見せた。

「僕は今回、負けたと思っていました。鉄棒での勝負だと分かっていて、僕はなかなか良い鉄棒ができたので、負けても悔いはないかなと。逆に今回、負けていた方が楽だったかもしれないですね」

 笑みを浮かべながら、そう語る内村の姿を見て、いかに苦しみと向き合い続けてきたかがうかがい知れた。頂点から陥落すれば、そのつらさからは解放される。

 個人総合の決勝は、まさに薄氷を踏むような戦いだった。内村はいつもどおり安定した演技を披露し、コンスタントに15点台をマークするものの、ウクライナのオレグ・ベルニャエフがそれを上回る点数をたたき出す。最終種目の鉄棒を残した時点で、2人の差は0.901点まで広がっていた。いくら内村が鉄棒を得意にしているとはいえ、1点近い差を覆すには、内村が完璧な演技をしてベルニャエフがミスをする以外にないと思われた。

 しかし、これまで勝ち続けてきた王者は、その勝負強さをいかんなく発揮する。団体総合の予選では落下した離れ技を続けざまに決めると、最後は美しい着地を成功させて15.800点のハイスコアをマーク。一方、ベルニャエフは着地がわずかに乱れ、14.800点にとどまる。結果的に、このわずかな違いが勝敗を分けた。

「気持ちで持ちこたえた」

最終種目の鉄棒で劇的な逆転。その瞬間、両手で大きなガッツポーズを作ってみせた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 点数が出て、自身が逆転したことを知った内村は、ガッツポーズをして喜びを爆発させた。

「うれしいというより幸せです。これだけ良い演技で、一番良い色のメダルが取れたので、僕は一番の幸せ者だと思います」

 ミックスゾーンに現れた内村は腰を抑えて、時おり顔をしかめていた。最後の鉄棒でエンドウを実施したとき、ぎっくり腰のような痛みが出たという。そうした状況で完ぺきとも言える着地を行ったのだから、そのすごさが際立った。

 4年前のロンドン五輪では、鉄棒で1つ難度の高い技を抜いて優勝を飾った。それだけの余裕があった。しかし今回は、自身の限界を超えるくらいの演技が求められた。もちろん、2日前の団体で全6種目に出場した疲れが残っていたという側面はある。だが、それを差し引いてもぎりぎりの戦いだった。

「いや、もうかなりしんどかったです。思い返したら2度とやりたくないくらい。今回にそこまで懸けていたわけじゃないですけれど、団体の金を取って燃え尽きそうになってしまって……。それでも頑張って、気持ちで持ちこたえました。今日は1種目も、1秒も気持ちを緩めなかったです」

 それだけロンドンのころから比べて、レベルが上がっている証拠だろう。内村はこう続けた。

「もうこの先は余裕のある戦いはできないと思うし、次にオレグとこういう大きな舞台で戦ったら、僕は絶対に勝てないと思います」

1/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント