「新しい歴史を作った」体操ニッポン チームとして融合した5つの才能

スポーツナビ

5人が助け合って獲得した金メダル

団体金メダルを獲得した体操男子日本代表。チームの総合力の高さを見せた 【写真:ロイター/アフロ】

 最終種目のゆかで演技を終えた内村航平(コナミスポーツ)は、膝に手を置き、立っていることさえつらそうな表情を見せた。それだけ壮絶な戦いだったのだ。

 第5種目を終えた時点で首位の日本から3位の中国まで0.739点差。1つのミスで順位が入れ替わる状況だった。2位のロシアにはゆかを得意としている選手が多く、加藤凌平(コナミスポーツ)いわく「航平さんの演技が終わるまで、勝てる確信がなかった」。

 五輪の金メダルが懸かる最終種目で、チームの勢いを加速させたのが最年少の白井健三(日本体育大)だった。序盤で2つの大技を決め、最後のシライでも着地をしっかりと止めた。16.133点(Dスコアが7.600点、Eスコアが8.533点)というハイスコアをたたき出し、優勝を一気にたぐり寄せた。続く加藤も安定した演技で最終演者の内村へとつなぐ。全6種目に出場した絶対的エースは、悲願としていた「団体金メダル」を自らの演技で決めてみせた。

「今日は本当にみんなに助けられた」

 試合後、内村はチームメートに感謝の言葉を述べた。体操ニッポンが12年ぶりの団体金メダルを獲得できたのは、全6種目で安定した演技を披露したエースを他の選手が支え、5人で助け合った結果だった。

「予選が1位通過じゃなくても、日本の体操はしっかりと評価されるし、団体で絶対的に金メダルを獲れるチームだということを証明できたと思います」

 内村は、チームの総合力に胸を張った。

流れを決定付けた田中の平行棒

流れを決定付けた田中の平行棒。15.900点をマークする会心の演技だった 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 決勝の2日前に行われた予選では、各選手にミスが出てまさかの4位通過。リオデジャネイロ五輪が開幕する前に、内村が「予選を首位で通過できなければ、金メダルを取れる確率は半分以下になる」と語ったように、決勝に向けて大きな不安を残した。首位通過にこだわったのは、ローテーションの関係による。日本チームの想定として、得意のゆかでまず他国を引き離し、苦手なあん馬とつり輪で耐え、跳馬、平行棒、鉄棒で再び差を広げる展開を描いていた。

 しかし、そのもくろみは崩れた。「もう終わったことなので、特に気にしない。今は決勝に向けて気持ちを切り替えるだけ」と内村は前を向いたが、予想だにしなかった展開に重苦しい雰囲気が漂った。

 決勝でも悪い流れは変わらなかった。第1種目のあん馬で2番手の山室光史(コナミスポーツ)が落下するミス。続くつり輪でも得点が伸びず、この時点で5位となった。幸運だったのはライバルの中国もゆかとあん馬で高得点を出せず、6位に沈んでいたことだ。

 日本は苦手な2種目で最低限の結果を残し、希望をつないだ。そして、第3種目の跳馬から徐々に勢いが出てくる。内村が大技リ・シャオペンを決め、白井も自身の名がつくシライ/キムヒフンを成功させ、高得点をマーク。

 さらに流れを決定付けたのが、平行棒で見事な演技を披露した田中佑典(コナミスポーツ)だった。予選では最初のあん馬でミスを犯し、「チームに迷惑をかけてしまった」と自身の出来を悔やんだが、決勝の平行棒では15.900点(Dスコアが6.800点、Eスコアが9.100点)をたたき出し、文字通り日本を救った。

「予選が本当にふがいなかったので、ここに自分が何をしに来たのかということを、もう1回振り返りました。ロンドンから4年間せっかく頑張ってきたので、これまでの練習を信じて演技しようと。今日の自分の演技には100点をあげたいと思います」

 田中は目を赤くしながら、溢れ出る思いを振り絞った。

白井「断トツで幸せな日になった」

ミスを取り返して逆転してみせる強さ。絶対的エースの内村航平は「僕たちは新しい歴史を作った」と胸を張った 【写真: Alex Livesey】

 2位のロシア、3位の中国ともに最終種目のゆかと鉄棒で得点が伸びず、結果的に合計274.094点をマークした日本が、アテネ五輪以来12年ぶりの団体優勝を決めた。「アテネ超え」をテーマとしていた今大会の日本チームだが、内村は「超えられない」と苦笑いを浮かべた。

「でも、僕たちは新しい歴史を作れたと思っています。アテネのときは美しい体操で金メダルという感じだったと思うんですけど、今回のリオはミスがあっても最後のゆかでドンと点数を取れるという、アテネとは違う点数の取り方ができた。爆発的に点数を取れる選手が日本にも増えてきたと思います」

 それは今大会でいえば、白井のゆかであり、田中の平行棒だろう。その一方で5種目に出場し、安定感抜群の演技を披露した加藤にも内村は賛辞を送る。

「自分としてはもう少し良い演技をしておきたかったというのはあるんですけど、凌平と佑典がいつも通りの安定した演技をしてくれて助けられました。特に凌平に関しては、すごいの一言です」

 第1種目のあん馬でミスをしてしまった山室も、続くつり輪では内村よりも高い14.866点(Dスコアが6.600点、Eスコアが8.266点)をマークし、自らの仕事をやり遂げた。その後はチームメートに声をかけ続け、良いムードを作った。まさに総合力で勝ち取った金メダルだったのだ。

 優勝が決まった瞬間、加藤は「本当にいろいろと胸に迫ってくるものがあって、幸せだなと思った」と振り返った。白井は「人生で一番心臓に悪い日だったけど、そのぶん達成感も大きいし、間違いなく断トツで幸せな日になった」と喜んだ。

 体操ニッポンが新たな歴史を作った日。それは、5つの才能が互いを支え合う形で融合し、偉大なチームが誕生した瞬間としても永遠に記憶されることだろう。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント