10連覇・内村航平を見上げる白井健三 「届きそうで届かない」王者の背中

矢内由美子

白井(左)はあと一歩まで迫りながら、内村(右)に届かなかった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 体操の全日本個人総合選手権決勝が4月9日、東京体育館で行われ、男子ではプロ転向後初の試合となった内村航平(リンガーハット)が6種目合計86・350点で10連覇の偉業を達成し、2008年11月から続いている個人総合での連勝を39に伸ばした。

 2位は内村に0・050差と迫る86・300点を出した田中佑典(コナミスポーツクラブ)。そして3位には、内村と0・250差の86・100点をマークした白井健三(日体大)が入った。白井は2位だった昨年に続き、2年連続で表彰台に上がった。

会場に漂った“世代交代ムード”

平行棒では、内村を上回る得点をマーク。白井は5種目め終了時点でトップに立っていた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「ビックリした」と本人も驚きの結果だった昨年とは、まったく違う内容だった。望外の順位ではなく、狙って勝ち取った表彰台。オールラウンダーとしての地歩を固めていることを示した白井は胸を張ってこう言った。

「今までの『ゆかと跳馬のスペシャリストだけど個人総合ができる選手』という見られ方ではなく、『個人総合をゆかと跳馬で組み立てている選手』という扱いをされたいと思っていた。今回、それを見せることができたのが良かった。3位という順位ではあるけど、内容を見ると去年より達成感はあった」

 予選3位で迎えた決勝の演技。白井は最初の種目となったゆかで、自らの名のつくH難度の「シライ3(伸身リ・ジョンソン=後方伸身2回宙返り3回ひねり)」と続く「リ・ジョンソン(後方抱え込み2回宙返り3回ひねり)」を最少のミスでまとめると、最後は「シライ・グエン(後方宙返り4回ひねり)」を決めて15・600点をマーク。予定通りの“超高得点”でロケットスタートを切った。

 苦手のあん馬(13・500点)とつり輪(13・300点)で耐えながら、ゆかの貯金を生かして上位にとどまると、4種目めの得意の跳馬では完成度の高い「シライ・キムヒフン(伸身ユルチェンコ3回ひねり)」で14・850点をマークした。

 5種目めは「自分の中では跳馬よりも得意な種目だと思っている」と話す平行棒。倒立技、腕支持技をよどみのない流れで決め、最後の前方抱え込み2回宙返りひねり下りを止めて14・700点。この種目で14・450点だった内村を上回る点を出し、会心のガッツポーズを見せた。

 5種目を終えた時点での得点は71・950点。同い年の谷川航(順大)と並んで首位に立った。3位の内村との差は0・050点とわずかではあったが、世代交代の瞬間がとうとうやってくるのかというムードが漂った。

本調子ではない王者の執念

最終種目の鉄棒で執念を見せた内村。逆転で10連覇を飾った 【写真:アフロスポーツ】

 こうして迎えた運命の最終種目、鉄棒。ここで勝利への執念を見せたのが内村だった。リオデジャネイロ五輪で負った左肩などの負傷の影響で、今回が五輪後初の試合となった内村は明らかに調子が戻っておらず、肘が曲がるなどの小さなミスが散見されながらも、終末技の「伸身ルドルフ(後方伸身2回宙返り2回ひねり下り)」をピタリと着地し、14・450点を出した。

 内村の後の演技となった白井は、鉄棒をあまり得意としていないうえに、一か八かを狙って急きょ大技を入れるという選択肢を今回は持っていなかった。白井も無難な演技でまとめ、14・150点。総合3位でフィニッシュし、表彰式では2位の田中を交え、3人で笑顔を見せていた。

 10連覇を果たした内村は、試合後、5種目めを終えて3位にいたときの心境を、同じく最後の鉄棒で逆転して金メダルを獲得したリオ五輪個人総合決勝を思い出しながら、このように語った。

「リオと同じような気持ちでやりたかったけど、それよりも今回は疲労が勝ってしまい、リオのときのような“ヒリつき”を再現することができなかった。今までで一番悪いくらいの鉄棒の演技になってしまい、途中で笑いそうなくらいでした」

1/2ページ

著者プロフィール

北海道生まれ。北海道大卒業後にスポーツニッポン新聞社に入社し、五輪、サッカーなどを担当。06年に退社し、以後フリーランスとして活動。Jリーグ浦和レッズオフィシャルメディア『REDS TOMORROW』編集長を務める。近著に『ザック・ジャパンの流儀』(学研新書)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント