東京五輪で金を…里崎が語る侍ジャパン 「選手の顔色をうかがったら終わり」
シンプルに「その時、一番うまい選手を」
WBC、五輪と国際大会を経験してきた里崎智也氏 【赤坂直人/スポーツナビ】
――里崎さんから見て稲葉ジャパンの印象はどのようなものでしょうか?
正直に言うと野球はほかのスポーツと違って特殊で、大会が極めて少ないので、強化試合は選手より監督、コーチの練習(サインを出すタイミング、継投の判断など)の方が重要です。
――それはなぜでしょうか?
野球は団体スポーツの中で極めてコミュニケーションがそんなにいらないのです。バッテリー以外は。
なぜかというと野球は「ここにボールが飛んだら、こうなる」というのは決まっているんですね。例えば「ランナー一塁でサードゴロ飛んだら、セカンドがセカンドベースに入って、捕ったらファーストに投げて、キャッチャーがカバーに行く」と。
これがサッカーだとフォーメーションや戦術などあってそうはいきませんが、野球は急に9人集めても、そこそこ試合になるんです。監督によって変わるのは作戦や起用法だけで、本質は変わりません。各ポジションで一番うまい選手を使えば強くなるんです。
――「一番うまい選手」という言葉が出ましたが、今後侍ジャパンの軸になりそうな選手はいますか?
フル代表の侍ジャパンを毎年組んだら前年から3分の1は変わると思いますし、「選手の見極めを……」と言いますが2、3試合では分かりません。今(侍ジャパンで)良い結果を残している選手であっても、所属チームでまったく試合に使われなかったら100パーセント選ばれません。
あと、五輪はシーズン中(東京五輪は7、8月)なので、シーズン前に決めていたことが覆るんですよ。北京五輪で言ったら12月のアジア予選ではサブロー(元ロッテ)が選ばれていたのですが、前半戦に打ちまくったG.G.佐藤(元埼玉西武)が代わりに入りました。
だから首脳陣のやることはマネジメントですよね。環境作りと方針を伝えて、作戦を実行するだけですよ。
――その中で「稲葉監督の野球」というものは、見えてきていますか?
コミュニケーションを大事にしているのは見えますけど、チーム作りはこれまで言ったように最後の最後でないとメンバーを決めきれません。
ただ、選手からすると(監督は)どういう野球をするのか分かっている方がやりやすいですね。捕手としては、この場面なら誰が出てくるかと分かった方が試合を点ではなく線で考えられます。例えば「ここでランナーを出したら、投手交代で、この投手が出てくるな。それだったら、この打者で無理に勝負しなくても、四球でもOK。際どいところで勝負しよう」という考え方もできます。
WBCと五輪の違い「一番はスケジュール」
2008年に北京五輪に出場。スケジュールに戸惑うこともあったという 【写真:アフロスポーツ】
まず五輪はメジャーの選手が出られないと思いますから、その点でもメンバー構成は、その年までしっかり決まらないですよね。
あと今の稲葉ジャパンではたくさんスタッフをベンチに入れていますが、北京五輪ではベンチに入れる監督、コーチで4人まででした。東京五輪がどういうルールになるかは分かりませんが、そうなると一塁ベースコーチは選手が入る必要があります。北京五輪の時は宮本慎也(現東京ヤクルトヘッドコーチ)さんがその役割を務めたように、リーダーシップがあって野球を知っている選手も入れなければいけません。
――選手目線で感じた違いもありますか?
一番の違いはスケジュールです。WBCは試合前の練習時間が必ず1時間以上あります。ところがオリンピックは、前の試合が長くなったら「次の試合は30分後」というのがありました。そんなのは経験したことがないから準備がすごく大変でした。
――国際大会で捕手に求められることは、どんなことだと考えられますか?
瞬時に相手の状況を見抜くことです。試している余裕はないですから。
(国際大会では)スコアラーが持ってくる情報も正直サラッとしたものです。また、それこそメジャーリーガーでない選手なら、知らない選手ばかりです。
――その分析力に長けている捕手はいますか?
一番状態の良い捕手が出るしかないですね。もしくは投手の選出が多いチームの捕手が出るか、です。
今のプロ野球の捕手って「絶対にこの選手」という飛び抜けた捕手がいません。すごく打つ捕手もいないですから。そうなると、「優勝したから良い捕手だ」という風潮になるわけです。
今で言うとソフトバンクの投手が多くなるでしょうから、甲斐拓也を選べばいいと思います。やっぱり(投手の特徴を)覚えるのが難しいんですよ。同じリーグなら対戦もあるので、ある程度分かりますが。
捕手は3人を選ぶと思うので、同リーグが3人は絶対にありません。絶対に1人は別リーグの選手が入ります。