初陣で優勝飾った稲葉監督の手腕 東京五輪へ向けて侍ジャパンが好発進

中島大輔

晴れやかな顔を見せたMVP外崎

「アジア プロ野球チャンピオンシップ」初代王者となった侍ジャパン。稲葉監督は選手から歓喜の胴上げ 【写真は共同】

「アジア プロ野球チャンピオンシップ」を初優勝した歓喜の輪が解けてから30分以上が経った後、一人ずつミックスゾーンを歩いてくる野球日本代表(侍ジャパン)には、さまざまな感情が交錯していた。

 最も晴れやかな顔に見えたのは、大会MVPに輝いた外崎修汰(埼玉西武)だ。7対0で快勝した韓国との決勝では、4回無死一、二塁からライトフェンス直撃の先制タイムリー。続く5回にはレフトオーバーのタイムリーを放ち、前日の台湾戦に続いて勝利の立役者になった。

 3試合で打率4割6分2厘を残した外崎に加えて、決勝で7回無失点に抑えた田口麗斗(巨人)、打率6割3分6厘の西川龍馬(広島)、同4割の松本剛、同5割8分3厘の近藤健介(ともに北海道日本ハム)がベストナインに選出された。選手個々の力こそ、侍ジャパンが初戴冠した最大の要因だった。

 試合後のミーティングで、稲葉篤紀監督はこう語りかけたと明かしている。

「選手たちに『ありがとうございました』と伝えました。初めての監督で至らない点を助けてもらいました。『2020年の東京オリンピックに向けて、ぜひまた日の丸を背負ってやりたいと思うように、これからも成長していってください』という話をさせていただきました」

浮かない表情の山川と源田

 一方、浮かない表情の選手も少なくなかった。その一人が、3試合ともに4番を任された山川穂高(西武)だ。初戦の韓国戦こそ反撃の狼煙を上げるツーランを放ったものの、打率2割1分4厘と満足のいく結果を残せなかった。

「(6回に2点タイムリーを放ったが)実際はタイミングや感覚をずらされていたので。短期決戦で1打席、1打席結果を求められるのは、あらためて難しいなと思いました」

 京田陽太(中日)との1、2番コンビと期待されながら台湾戦はスタメンを外れ、決勝の韓国戦は9番に降格した源田壮亮(西武)は、「何もできなかったという感じです」と肩を落とした。

 わずか3試合の超短期決戦。当然、調子の良し悪しはある。稲葉監督は日々その見極めを行い、打順を組み替えたと振り返っている。それが3試合ともに当たったからこそ、侍ジャパンは3連勝を飾ることができた。

無死一、二塁からの強攻で先制点

全試合6番で先発出場した外崎は勝負強い打撃を披露し、MVPを獲得 【写真は共同】

 そうした点も含め、今大会で最も注目されたのが稲葉監督の初采配だった。決勝の韓国戦は序盤のチャンスをモノにできずに嫌な展開となったが、0対0で迎えた4回、指揮官の決断が光った。無死一、二塁で6番・外崎に回ると、バントではなく強攻に出たのだ。

「セカンドランナーが山川選手で、正直そんなに足が速くない。一、二塁でバントとなると、フォースアウトがあります。外崎選手が宮崎合宿からずっと右打ちをうまくてやってきましたので、進塁打にかけようと思いました」

 結果、ライトオーバーのタイムリーで貴重な先制点を手にした。

 続く西川がセカンドライナーに倒れた後、1死一、三塁で甲斐拓也(福岡ソフトバンク)が打席に入ると、2球目にセーフティースクイズを仕掛ける。しかし甲斐はバットを引いてボールとなり、飛び出した三塁走者の上林誠知(ソフトバンク)が捕手の送球で刺された。

「あそこはどうしても1点を欲しかった場面で、また違う1点の取り方があったんじゃないかなというのはあります。本当に大事な1点を取りにいくときの作戦は、勉強していかないといけないと思います」

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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