東京五輪で金を…里崎が語る侍ジャパン 「選手の顔色をうかがったら終わり」

高木遊

日本球界、「捕手不足」の理由

2006年WBCでは世界一に輝いた。小笠原道大(左)と喜ぶ里崎智也 【写真:ロイター/アフロ】

――「絶対的な捕手がいない」ということですが、どうして日本球界にそうした捕手がいなくなってしまったのでしょうか?

 それは簡単なことで、「打てる捕手を内野手や外野手にコンバートさせるから」です。

 昔は絶対的な存在の捕手がいて「仕方なく」コンバートしていたんですね。例えば西武だったら伊東勤さん、中嶋聡さんがいるから「和田一浩さんの打撃がメッチャ良いからコンバートさせようか」となっていたんです。小笠原道大さん、関川浩一さんも磯部公一さんもそのパターンです。
 昔は「どんなに頑張っても、レギュラーになるのは厳しいからコンバートしよう」だったのに、今は絶対的な存在の捕手もいないのに、「打てるから」と言ってコンバートするんですよ。そこが昔と今の絶対的に違うところです。

――これまで名捕手と呼ばれた方々も、みなさん打てる選手ですよね。

 僕らの時もそうですけど、みんなが打っていると、打てなかった時の悲壮感がすごかったんです。でも今はみんなが打たないから、「捕手は打てなくてもいい」という風潮になってきているのが、成長の妨げになっています。

「捕手は打てなくても守れればいい」だなんて、ほんとしょうもない固定概念ですよ。そんなの逃げているだけですから。バットを持って打席に立っている選手が「打てなくて仕方ない」なんてことはないんですよ。

――「捕手はまず守り」という風潮は、アマチュア球界からありますね。

「じゃあ守備面って何で評価するんですか?」っていうと「リード」って言いますけど、そうしたら「優勝したチームの捕手以外は全員ダメなキャッチャー」ってなりますよ。

 名捕手と呼ばれた方の実例を見ると、必ず2つの要素のどちらかを持っています。それは「メッチャ打つ」か「強いチームにいる」かのどちらかなんです。

 弱いチームで打てなくて「名捕手だな」と言われた選手なんていません。安易なコンバートも「捕手としては打てるという評価を得ている」という前提を忘れてはいけないですよ。野手となったら、打撃で求められるものも上がりますから。

国際大会で大切なこと「全員を平等に扱う必要はない」

侍ジャパンは「世界一になれる力は間違いなくあります」と語る 【赤坂直人/スポーツナビ】

――五輪は他国にメジャーリーガーがいない分「勝って当たり前」というプレッシャーはのしかかるでしょうか?

 ダメだったら責任を取るだけです。僕の理屈としては選手は「選んだ人が悪い」と思って思い切ってプレーすれば良いんですよ。選ばれたら思い切りやって、勝つか負けるかはその時次第です。

 去年のWBC(日本は準決勝で米国に1対2で敗戦)を見ても分かるように、日本は世界一を獲れる力はあるんです。でも最後はミスした方が負ける。去年のWBCは日本がミスしてしまいましたし、日本がWBCを優勝した時も相手がミスをしています。結局それくらいの力の差しかない、紙一重ですよ。

 あと野球って、投手がとてつもないピッチングをしたらなかなか太刀打ちできないんですよ。北京五輪で言うとストラスバーグ(ナショナルズ)が大学生で選ばれていてエゲツなかったですし、韓国の左腕(金広鉉)も神がかってるくらいすごかったんですよ。それにハマったら、まあなかなか打てないです。

――継投も重要な鍵を握りそうです。

 五輪は球数制限がないですから、そこの見極めが監督の一番の仕事かもしれませんね。
 だからこそ決めておけばいいんですよ。7回はこの投手、8回はこの投手、9回はこの投手って。それで、6回より早く先発が捕まったら、この投手とこの投手を相手打者の右左によって決めておくとか。選手たちもやりやすいですし、首脳陣も腹を決められますから。

 迷ったらダメです。そうなると、選手たちも「誰がこの場面でいくんだろう?」となって、体と心の準備がしづらいですよね。中継ぎに適任者がいないんだったら、普段は先発投手だとしても、腹をくくって役割を決めるしかないですよ。どっちつかずが一番困るので、ハッキリ任せてしまえば問題ないと思います。

――その際は、投手と捕手の組み合わせは、ある程度決めておくべきでしょうか?

 ハッキリしておいてもらえればやりやすいですよね。「この投手が投げるなら俺だな」と思っていれば十分準備もできますから。
 でも、みんな良い選手だから首脳陣も迷うんですよね。ベンチに首位打者やホームラン王がいたり、中継ぎにエースがいたり。そこが迷うところですよね。
 だから、全員を平等に扱う必要はないです。選手の顔色をうかがったら終わりです。そこは割り切っていくしかありません。

――その中で、侍ジャパンはどのような野球をすべきでしょうか?

 ひとつ言えるのは世界一になれる力は間違いなくあります。そして、スモールベースボール以外で勝てる方法はないです。バント、盗塁、エンドランと言った細かいことやらせたら日本は世界一ですから。走力だけなら他の国の方が速いでしょうけど、走塁技術は日本人が一番上手です。クイックにしても野球のテクニカルな部分で日本は間違いなく世界一です。それを生かさない手はありません。

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著者プロフィール

1988年、東京都生まれ。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。関東を中心に全国各地の大学野球を精力的に取材。中学、高校、社会人などアマチュア野球全般やラグビーなども取材領域とする。

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