八村塁が挑む2年目のNCAAトーナメント 1年目は「観察」、今季は「実験」

永塚和志

苦戦を強いられたトーナメント序盤

2回戦のオハイオ州立大戦でキャリアハイの活躍を見せた八村(左) 【Getty Images】

 髪の毛が、随分と伸びてきた。

 しかし、そんなことが気にならないほどに、八村塁という選手のバスケットボールコートでの「伸び」が際立つ。

“マーチマッドネス(3月の熱狂)”で知られる米国カレッジスポーツの一大イベント、NCAAトーナメントに出場する八村のゴンザガ大が17日(現地時間、以下同)、2回戦までを終了した。1回戦ではノースカロライナ大グリーンズボロに苦戦を強いられ、オハイオ州立大にも苦しみながら90−84で勝利を収めた。

 ゴンザガ大はこれで16強進出(通称:スイート16)を4年連続で決めたが、八村個人にとっても米国へ渡って以来、最も印象に残る試合となったのではないだろうか。1回戦の試合ではファウルトラブルもあってわずか4得点に終るというフラストレーションのたまる試合から中1日。2月に20歳となり「成年期」へ入ったばかりの男はキャリアハイの25得点、4ブロックと攻守にわたる活躍で勝利に寄与した。

「ホテルに帰って、他の(強豪)チームが負けたりそういうのを考えたら、実感してくると思います」

 試合後のロッカールーム。難しい試合をものにし、自身2年連続で16強へ歩みを進めることになった意義について問われると、八村はそう答えた。

フリースローの復調から見えた成長の証

2回戦の前半まで外し続けたフリースローを、勝負のかかる残り2分を切ってから復調させた 【Getty Images】

 こう言っては酷だが、ここまでの2試合を難しくした原因の一端は、八村自身にもあった。今季、NCAAトーナメントに入るまでの34試合で84.3パーセントの成功率だったフリースローが、1回戦の終盤、僅差の場面で2本連続で落としてから調子が狂い始めた。オハイオ州立大戦では12本のうち決めたのは6本。前半では4分1という低確率だったが、その内容も、リングの手前にあたる短いものになってしまったり、軌道が低くなってしまったりと何かがおかしくなっていた。

 レギュラーシーズンでは試合感覚があるため課題を修正する時間があるがトーナメントに入るとその時間が短くなってしまう――。オハイオ州立大戦の前日にそう話していた八村だったが、実際、1回戦から始まったフリースローの課題は2日間では簡単には直らなかった。それどころか、打てば打つほど悪化しているようにさえ思われた。

 だがつい一昨年、米国の大学へ進学し、名門チームのユニホームを身につけ、全米最大級のトーナメント(NCAAトーナメントはプロを含めた世界のスポーツイベントで五指に入る「ブランド」となっている)でプレーする20歳になったばかりの彼にスーパースターのようなパフォーマンスを毎試合期待するのは無理というものだ。

 八村は前半、外し続けたフリースローを、勝負のかかる残り2分を切ってからの場面では6本のうち5本を成功させた。「彼は最後には自身で何とかしてみせた」。ゴンザガ大のマーク・フューヘッドコーチ(HC)はそう言って、日本から来た八村を誇らしげに語った。

 指揮官はそれこそが八村が「競争者として成長した証し」と強調する。そして「スポーツでそれをやってのけるのは容易ではない」と、われわれ外野を諭すかのようにそう続けた。

長所磨きにプラスして進める肉体強化

 八村の最大の武器が高い身体能力、運動能力であるということは、誰もが分かっていることだ。だがフューHCは、1回戦の八村は「自らの運動能力と天賦の才」を生かせず「ソフトにプレーしていた」と手厳しかったが、オハイオ州立大戦では「タフ」で「虎のように激しくプレーした」と表現した。

「身体と運動能力にまだ精神力が追いついていないところはあるが、彼の運動能力をもってすればまだまだ伸びると私は思っている。このような大きな舞台の勝負のかかった場面でそれができるのだから、選手として着実に成長している」(フューHC)

 もちろん八村も、両親からもらった身体能力を生かすリバウンドやドライブといったプレーが今季はより伸びたと自身の成長を実感している。また昨季はそれほど力を入れていなかったという肉体強化にも着手。今季は身体を強くすることで自分の得意なプレーをより出しやすくするために、フィジカルトレーニングにも力を入れた。彼いわく、すでに身体の強さは「チームで一番強いほど」だという。

 米国へ渡って2シーズン目。八村は着実に階段を上ってきた。レギュラーシーズン、ポストシーズンを通して先発出場はわずか1試合ながら、昨季1試合平均4.6分だった出場時間を今季は20.3分まで伸ばした。また、得点は平均2.6点から11.4点、と上げ、所属するリーグ、ウェストコーストカンファレンスのファーストチーム(オールスターチーム)に選出された。

 シーズンの「本番」であるNCAAトーナメントに入るにあたって、複数の米国メディアがこの日本人選手をチームの「ゴー・トゥー・ガイ(頼るべき中心選手)」や「Xファクター(未知の要因)」になる可能性があるとした。

 フリースローの不振はあったものの、オハイオ州立大戦でのプレーぶりは彼がそうして取り上げられることに説得力を持たせる活躍だった。ディフェンスでもオフェンスでも、八村はそのサイズとスピード、柔らかさを生かして中でも外でもプレーすることが求められる。この試合でも、残り4分を切った場面で今季それまで4本しか決めていない(しかも最後に決めたのは11月終盤)3ポイントシュートを決め、チームに勢いをつけた。また、残り2分を割ってからは相手のゴール下でのレイアップシュートを見事にブロックした。このプレーがゴンザガ大の勝利を決定付けたと言ってもよかった。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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