八村塁、助走期間を経て“次の段階”へ 2年目のシーズンで得た手応えと課題

丹羽政善

八村の育成計画を立てていたゴンザガ大

チームは1年目を準備期間と捉え、2年目から八村を主力として活躍させるよう計画を立てていた 【Getty Images】

 昨季は、試合が決まった終盤の数分間――。それがゴンザガ大の八村塁に与えられた出場機会だった。全米でも屈指のバスケットボール名門校であるゴンザガ大は昨季、19年連続でNCAAトーナメント(全米大学選手権)に出場し決勝まで勝ち進んだが、そこでも八村の出番は限られた。

 それだけの名門校なら、控えにいるだけでもほんの一握りのエリートと言えるのではないか。見方によってはそうとも映るが、実のところ、八村の評価はその程度ではない。

 役割に関してはシーズン前から決まっており、チームは1年目を準備期間と捉え、2年目から主力として活躍させるよう計画を立てていた。しっかり育てる、そんな意図があったのである。

 実際、2年目の今季はスタメン出場こそまだないものの、ローテーションに入り20分前後のプレーイングタイムを与えられている。開幕してから7試合目で昨季の出場時間を上回った八村は、11月26日(以下、現地時間)のテキサス大戦で28分間プレーし、自己最多の20得点をマーク。徐々にそのポテンシャルを発揮しつつある。

 八村本人は今、どんなことを考えながらバスケと向き合い、手応え、課題をどう捉えているのか。また、来年のNBAドラフトでは1巡目に指名されるのでは、といううわさもあるが、どう意識しているのか。開幕してから12月1日までに3試合を取材。その時の彼の言葉をたどりながら、現在地を探る。

開幕戦では11得点をマーク

昨年のNCAAトーナメントでは計6分間の出場に終わった八村(中央) 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 11月10日、米北西部特有の冷たい雨が降る中、ゴンザガ大の今シーズンが幕を開けた。

 アリーナには、カンファレンス・チャンピオンのバナーがずらりと掲げられているが、今年からそこに、「ファイナル4出場」というバナーが加わった。これまで2度、NCAAトーナメントで準々決勝まで駒を進めていたゴンザガ大だったが、突破は初めてだった。

 NCAAトーナメントでは6試合で計6分の出場に終わった八村だが、今季はローテーション入りを果たし、開幕戦では18分間に出場すると、11得点をマーク。自己最多でもあったが、「大きい」と形容したのには、それ以上の意味が込められていた。

「得点の部分では、今まで僕が(日本で)取っていたのに比べると少ないと思うんですけれど、やっと(チームの)システムが分かるようになってきた。1年かけても難しいところがある。そう考えれば、11得点は大きいと思います」

 ゴンザガ大ではオフェンスやディフェンスのみならず、出場時間に関しても細かく役割が決められている。まずはそれを理解しないことには、自分のプレーも何もない。その中で今、ようやく周りが見えるようになった。

 チームが1年間の助走期間を設けた意味もそこにある。八村にもその時間は必要だったのだ。

強豪校との試合で手応えをつかむ

八村は強豪校とのトーナメント戦を経て「学んだものが大きかった」と話す 【丹羽政善】

 昨季は計128分の出場時間に留まっており、今季は7試合目でそれを上回ったが、その時間があったからこそ、「今の自分がある」と八村は話す。

「去年、レッドシャツを着るか着ないかということがあったんですけれど、そうしなかった(着なかった)ことは、本当に良かった。去年の判断は本当に大きかったと思います」

 フレッシュマンだった1年目は、学校での勉強、チームのバスケットに慣れるためにも、練習には出られるが、試合には出られない練習生(レッドシャツ)としてチームに参加する選択肢もあった。ただ八村は、少しでも試合に出られる道を選んだ。肌でゲームを感じたかった。それによって練習も学校の授業もよりハードになったが、判断は間違っていなかったと、あらためて感じている。

 そして今、試合に出続けているからこそ、得られるものがある。

 感謝祭の翌日から、オレゴン州ポートランドで「フィル・ナイトインビテーション」というNIKE(ナイキ)の創業者の名前を冠したトーナメントが行われた。NCAA(全米大学体育協会)の強豪校が参加するこの大会において、八村は「学んだものが大きかった」と話す。

 学んだものとして、具体的には「ゲームのスピード」と口にしたが、体が慣れてきていることに加えて、システムの中で、自然に体が反応している点でも手応えを得た。

「(システムに)慣れてきて、体が勝手にというか、いい方向に持っていけるようになっているのはいい。それが大きかったのが、この間のトーナメントでした」

 八村は、トーナメントを終えた最初の試合(11月29日のインカーネイト・ワード大戦)でも、16分間で18得点を挙げるなど、手応えを結果に結び付けている。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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