八村塁が挑む2年目のNCAAトーナメント 1年目は「観察」、今季は「実験」

永塚和志

自他ともに感じ出した才能

「シーズンが進むにつれて僕が大事な立場にいるのだなということも分かってきた」と八村 【Getty Images】

 試合後のロッカー。この夜のヒーローの一人を囲んだのは日本人だけではなく、米国人メディアも彼からのコメントを求めた。

「フリースローを外しファウルトラブルに陥っても彼は落ち込まず、攻撃的であり続け、大きなプレーを決めた」とフューHCは声を大きくした。

「今日の試合は彼なしでは勝てなかった」

 技術的な部分での成長に伴って、内なる自信と責任感は増している。そして気のせいか、あるいは他者と同じように人間としても成熟してきているからか、八村特有の無邪気さが薄れていたようにも感じられた。

 だが、それは必ずしも悪いことではない。無邪気さに代わって、より自覚が備わり、よりバランスの良い人間、選手になってきているのだ。

 上述したように米国のメディアやファンも今季、八村の存在をより明確に認識するようになったに違いない。それは、将来のNBA入りを目標にする彼がその才能を開花し始め、ゴンザガ大の中核を担い始めているからだ。

「コーチたちからも期待されていて、(シーズンの)最初の方はあまり意識していなかったですけれど、シーズンが進むにつれて僕が大事な立場にいるのだなということも分かってきています。そういう中で、次の試合もチームとして頑張っていきたいなと思います」

 オハイオ州立大戦前日、チーム内で自分の役割が増していることを感じているかと問うと、八村はこう答えた。

中心選手として才能を爆発させるのは3年目以降

 ゴンザガ大で長くアシスタントコーチを務め、八村をはじめとする数多くの外国人選手獲得に尽力してきたトミー・ロイド氏は、2年目の八村は英語も上達し、それに伴ってチームのシステムや指示をより深く理解できるようになったことも大きいと話す。

 無論、八村がどれほど成長したかを語る時、米国初年度だった「昨季と比べてどうか」というところに自然と基準が置かれる。だが、彼のポテンシャルの伸びしろはまだ有り余っているように思える。ロイド氏はことあるごとに、八村のゴンザガ大での1年目は「観察」の時間であり、2年目の今季は「実験」の期間だということを口にしてきた。真の意味で、中心選手として才能を爆発させるのは3年目以降だということだ。

 ゴンザガ大ではおそらくかなり細かいプレーまで教わっているのだろう。オハイオ州立大戦ではフリースローの不調ばかりに目がいったが、「フリースローだけではなくてリバウンドとかまだまだのところが(他にも)あるので、これからそういうところを調整していきたい」と八村本人は述べた。自身にとってもチームにとっても厳しい試合の直後だったこともあってか、表情には元来の無邪気さが感じられなかった。

 日本から来てまだ間もなく、英語がようやく操れるようになってきたばかりの若者に過度な期待をすべきではない。まだまだ経験がないのだからプレーぶりに波があって当然だ――。ロイド氏は、八村の成長を急いてはならないとくぎを刺す。

「じっくりと大事に育っていくことを望んでいる」

 フューHCと同様に、ロイド氏の口ぶりにも八村をじっくりと育てたいという思いが透けて見える。筆者が日本人であるからだろう。ロイド氏は、やんわりとではあるものの、日本のメディアが八村ばかりを取りあげることに待ったをかける。

「彼はまだ若い選手であるということを、日本のメディアには理解してほしい。われわれとしては彼がじっくりと大事に育っていくことを望んでいる。成長を急くのではなく、だ。彼のペースで成長してもらうこと。彼はすばらしい人物でもあり、すばらしい心を持っている。だから彼にはもう少し時間を与えてあげてほしいし、普通の青年のように接してもらいたい。そうすることで、最後はわれわれも皆ハッピーになれるというものさ」(ロイド氏)

 そう言うロイド氏の言葉を、こちらとしてはただただ恐縮して聞くしかないところがある。とはいえ、八村の2017−18シーズンはまだ終わっていない。まだここから最大4試合、彼のプレーを見られる可能性がある。4試合ということは、言わずもがな、去年同様、トーナメント決勝まで進出するということだ。

 昨季、ゴンザガ大は同校史上初のファイナルフォーおよび同決勝戦進出を成し遂げている(結果は準優勝)。しかし八村の出番はまったくなかった。これまで日本人選手が入ったことのないようなレベルの名門校に入り母国を中心に注目を集めたが、現実には1年目は戦力であったとは言いがたかった。

 しかし今年の彼がそんな存在ではいことは、既に上述してきた。急かしてはいけない。しかし彼が、近々の試合のように勝負を左右する戦力としてコートに立つ姿を見てみたいと思う気持ちは自然の発露だ。

 そうなれば、もはや髪の毛の伸びなどまったく意識が向かなくなっているだろう。

 16強のゴンザガ大はフロリダ州立大との試合に勝てば、8強の試合をロサンゼルス・レイカーズとロサンゼルス・クリッパーズの本拠であるステープルズセンターで戦う。フロリダ州立大戦は現地22日に行われる。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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