人に慕われ、縁に感謝する無良崇人 引退後もフィギュア界を支える存在に

沢田聡子

思い描くスケートができた全日本選手権

「自分の役目は終わった」と、現役引退を発表した無良崇人(中央) 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

「これで自分の役目は終わったな」――。

 平昌五輪・男子シングルのショートプログラム(SP)。羽生結弦(ANA)が演技を終えた時、無良崇人(洋菓子のヒロタ)はそう感じたという。

 2014年ソチ五輪の代表入りを逃した時から、平昌五輪を目指して競技を続けてきた無良は「自分の中では、もともと今シーズンをもって引退する方向でずっと考えていた」と胸の内を話す。ただ、現役最後のシーズンに無良が自らに課したのは「自分らしく滑り切れる演技」。それが引退を考える前提だった。

 しかし平昌五輪シーズン前半、グランプリシリーズでの無良は、持ち味である豪快なジャンプがなかなか決まらない。本来の力が出せず焦りを感じていた無良は、目標である平昌五輪出場のため、最終選考会である全日本選手権で挽回する必要があった。SP3位で迎えた全日本のフリー、無良はシーズン当初予定していた2種類3本の4回転を跳ぶ構成から、4回転を1種類1本に抑える構成に変更して臨む。高く大きいトリプルアクセルも2本成功させて持ち味を見せ、演技をまとめた。観る側としてもようやく無良が本来の滑りを取り戻したことに安堵(あんど)でき、また平昌五輪に懸ける思いを感じた全日本の演技だった。

2017年の全日本選手権では「自分が思い描くスケートができた」と語り、それが引退を意識したきっかけにもなった 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 平昌五輪代表選考に関しては、実質、全日本で2枠を争ったため、総合3位の無良は代表に入ることができなかった。「自分が思い描くスケートができた」という達成感を味わった無良には、「ここで終わりにしてもいいかな」という思いもあった。しかし補欠選手でもあった無良は、平昌五輪まで練習を続け、体調を整えていた。

 平昌五輪について無良は「男子も女子も本当にすごくいい滑りをしていたなと純粋に見られた」という。羽生の五輪2連覇についても「僕らが次にやろうとしていることにもすごくプラスの影響を与えてくれる」と評価する。

「フィギュアスケートだけでなく、スピードスケート、アイスホッケー、カーリングなど氷上で争う競技に、今回の平昌五輪はすごくいい影響を与えてくれるだろうなと見ていて感じた。冬のスポーツの勢いを、次の世代、次の五輪に向けて、自分たちも何かいい影響を与えていけたらいい」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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