チェルシーを苦しめた“メッシの守備” カウンターでチャンスを量産したバルサ

清水英斗

4失点のうち、3失点はカウンターによるもの

2試合でチェルシーが喫した4失点のうち、3失点はカウンターによるものだった 【写真:ロイター/アフロ】

 2戦合計4−1。この2試合でチェルシーが喫した4失点のうち、3失点はカウンターによるものだった。ここに勝敗を分けたポイントがある。

 やはりチェルシーにとって痛かったのは、第1戦で1−1とされる同点ゴールを許してしまったことだ。後半30分に自陣のペナルティーエリア脇から、クリステンセンが中央へ出した横パスがセスクにつながらず、ボールを拾われてメッシに流し込まれた。

 致命的なミスには違いないが、これはチーム戦術に沿った上でのミスでもある。チェルシーはゴールキックでも、センターバックを下げてGKから足下でパスをつなぎ、低い位置でもポゼッションを試みていた。守備時に「5−4−1」で低く構える分、どこかでボールを持つことも考えなければ、サンドバック状態になってしまうからだろう。この2戦のチェルシーの戦術は、リトリートとポゼッション、2つ合わせて意味を成す。

 バルセロナはそこを破壊した。チェルシーの守備はコンパクトで人数が多く、連動もしっかりしている。リトリート守備を打開できたのは結局、第2戦のメッシの先制ゴールのみだ。しかし一方で、ポゼッションを幾度となく壊し、カウンターでチャンスを量産した。その点でメッシやスアレスの守備が寄与したことは、前述の通りだ。

チェルシーの守備は充分な質があったが……

充分な質があったチェルシーの守備ブロック。勝敗を分けたポイントは何だったのだろうか 【写真:ロイター/アフロ】

 第1戦の場面でクリステンセンが無理をして、致命的なミスを犯したのは、チーム戦術との狭間(はざま)にいたからだろう。1−0でリードした後半30分という時間帯を考えれば、たとえポゼッションについて共通理解があったとしても、より簡単なプレーを選択すべきだったかもしれない。そのリスク判断において、ベテランのセスクと、21歳のクリステンセンの間に一瞬のズレがあり、それがミスの要因になったのではないか。

 特に後半はこのような判断のズレが起こりやすい。スコア、疲労、メンタル、選手交代などにより、判断の元になる状況が複雑化しているからだ。

 思い出されるのは、2014―15シーズンのCL準決勝の第1戦、バルセロナvs.バイエルン・ミュンヘンだ。0−0で迎えた終盤、ボールを取ったGKマヌエル・ノイアーが素早く左サイドへ展開したが、フィールドプレーヤーの足が止まったところで、ダニエウ・アウベスのハイプレッシャーを受けてボールを奪われ、ショートカウンターからメッシに先制ゴールをたたき込まれた。

 ノイアーは左サイドに数的優位を生み出せることを確信していたし、それはジョゼップ・グアルディオラ監督が率いた当時のバイエルンのスタイルでもあった。しかし、フィールドプレーヤーは止まったまま。チーム戦術と試合状況の狭間で、その判断をあの瞬間はチームが統一し切れなかった。今回の第1戦でも、チェルシーには同じことが起きたのではないか。

 2戦含めて、チェルシーの守備ブロックは、バルセロナの攻撃を防ぐのに充分な質があった。ところが、ポゼッションのほうは、バルセロナのプレッシングに破壊され、カウンターの餌食(えじき)となっている。今回はその点が勝敗を分けた。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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