チェルシーは早急に戦力の底上げが必要だ 不満をためるコンテが望む「120%」の努力

山中忍

開幕戦で見せた冷ややかで自虐的な笑い

昨季の王者チェルシーは開幕戦で退場者2人を出し、バーンリーに2−3で敗れた 【Getty Images】

 8月12日、バーンリーに敗れた今季プレミアリーグ開幕戦(2−3)、チェルシーのアントニオ・コンテ監督は後半早々に笑っていた。テクニカルエリアで両手を膝に当て、うつむいたまま肩を揺らしていた。冷ややかで自虐的な笑い――。10人で3点差を追う戦況を眺めながら、何ひとつ思い通りにならない境遇の中で自暴自棄になり、笑わずにはいられないかのようだった。

 前半14分、センターバック(CB)で新キャプテンのガリー・ケイヒルに一発退場を命じた主審が敵にFKを与えた直後の一幕。終盤にタイミングを逸したタックルで2枚目のイエローをもらう運命にあったセスク・ファブレガスだが、あの場面では正当に相手からボールを奪ったように見えた。だが、主審はイエローカードを提示。そんな時、ベンチ前で一緒に戦う印象が強烈だった昨季のコンテであれば、不利な判定には怒鳴り声を上げて不満を示し、かつ選手たちに守備への切り替えを叫んでいたのではないか?

 指揮官の中に鬱積していた憤まんの源は、補強不足のまま開幕を迎えたチーム事情だろう。当日のスタメンは平均年齢約26.5歳。ベンチは平均22.7歳。これ自体は一概に問題とは言えない。ユース出身の若手が出場機会に恵まれない傾向が続くプレミアで、その代表格と言えるチェルシーのリーグ戦メンバーとしては歓迎されてもおかしくない。
 ただし、それは監督の起用方針に沿ったメンバーであればの話。エデン・アザールとペドロ・ロドリゲスをけがで欠く前線で先発したジェレミー・ボガと、終了間際にベンチを出たチャーリー・ムソンダの両20歳がプレミア初出場を果たす開幕戦など、コンテは意図していなかったはずだ。チャンピオンズリーグ(CL)にも復帰する今季に臨む指揮官は、即戦力を加えての総合力底上げを望んでいたのだから。

「120%」という表現に込められた意味

コンテがCLでも優勝を狙う意気込みでいることは想像に難くないが、今夏の移籍市場でフロントは指揮官の満足のいく働きは見せていない 【Getty Images】

 コンテがCLでも優勝を狙う意気込みでいることは想像に難くない。祖国イタリアではセリエA3連覇を成し遂げ、プレミアでも1年目から基本システム変更という自らの采配で優勝を実現した実力者でもある野心家が、監督としてのCL初優勝を次なる目標と意識するのは当然だ。国内での王座防衛だけでも選手層の強化が必要だと認識していたに違いない。ほぼ固定メンバーで昨季プレミアを制したチェルシーは、シーズン最終戦のFAカップ決勝でアーセナルに敗れている(1−2)。既に達成感に浸っていた集団と、リーグ5位で無冠では終われなかった集団との意欲の差が出た敗戦。慢心を嫌うハングリーな指揮官が、チーム内競争で主力の尻をたたく必要性を痛感しなかったはずがない。

 ところが続く今夏の移籍市場で、補強の主導権を握るチェルシーのフロントは動きが鈍かった。オフ中にイタリアから「激怒」や「離任」という言葉も聞こえた2カ月半を経て、コンテは昨季優勝監督がうそのような暗く険しい表情で今季開幕を迎えている。7月に合意した新契約が年俸アップだけにとどまり、残り2年間の契約期間の延長には至らなかった背景にも、補強に見られる自身への支援レベルに対する疑問があったと考えられる。

 開幕戦前の会見で手元の戦力に「ハッピーだ」と言ってはいる。「移籍市場で最善を尽くしているクラブを信頼している」とも言っていた。しかし、その表情や仕草からは本心とは思えなかった。「指導に専念するのが仕事」である自身と、「向上を期す」選手たちの取り組み姿勢に関して繰り返した「120%」という表現は、そうでなければ今季の成功などあり得ないほどの戦力不足だと経営陣に訴えるかのよう。コンテは「ハードワーク」がモットーの監督で、100%以上を尽くす決意を「110%」と表現する例は一般的でもあるが、あえて今季は「120%」の努力を要すると言うのだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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