選手にも生まれた新たな可能性 JリーガーのSNS事情を考える (2)

木崎伸也
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提供:(公社)日本プロサッカーリーグ

三浦知良が昨年、50歳14日でJリーグ最年長ゴールを決めた際、とあるSNSでは意外な形で大盛り上がりを見せていた…… 【(C)J.LEAGUE】

 ときにソーシャルメディアはとてつもない影響力を生むことがある。Bリーグの千葉ジェッツ所属の伊藤俊亮は、それを実現している1人だ。

 きっかけは昨年3月、文房具メーカー「キングジム」のTwitterアカウントに対して、伊藤が「50歳14日でのJ最年長ゴール記録おめでとうございます」とボケるツイートをしたことだった。

 キングジムの担当者が「それ、キングジムじゃなくてキングカズさんな」とツッコミを入れたことで盛り上がり、「せっかくなので、千葉ジェッツのグッズとか作れたらいいなぁ…なんて思ったり」と提案。この流れにジェッツの広報と社長が加わり、最終的にはBリーグまで巻き込んで、キングジムとBリーグがコラボした文房具が商品化された。

 伊藤はこれだけでなく、ジェッツに新スポンサーをもたらすなど、Twitterで選手の枠を超えた活躍をしている。Jリーガーのソーシャルメディア利用を考える上で、これほど手本になる選手はいない。

伊藤「タグを研究しながら楽しんでいる」

Bリーグ千葉ジェッツの伊藤は、Twitterの影響力を効果的に活用している好例だ 【スポーツナビ】

――伊藤選手、今回はプレーではなく、ソーシャルメディアについて聞かせてください。現在のTwitterのスタイルはどうやって生まれたのですか?

 Twitterを始めた当初は、一方的に発信して、タイムラインを眺める程度の使い方でした。ただ、しばらくして企業アカウントが話題になり始めた。シャープさんのアカウントを見ていたら、この運用方法は選手にとってもひとつの正解だなと。

――どの点が正解だと思ったのでしょうか?

 企業の宣伝的な内容は2割にとどめ、8割は人間的な部分を出していたんですね。企業アカウントの担当者のみなさんは、「8対2の割合」とおっしゃっている。それくらいの割合でないと、言葉に体温が乗らないと。

 スポーツ選手も、試合結果や告知ばかりだとおもしろくない。試合は勝ち負けがあるもの。僕はいい試合をして勝っても引っ張らず、負けてコメントをしなきゃというときも140字以内に収めて、すっと次につなげられるような雰囲気でやるようにしています。

――人間的な部分のツイートで意識していることは?

 Twitterで楽しんでもらえる投稿は、自虐的なネタが多いんですよ。だから自虐的な内容につなげるように意識しています。あとはみなさんが1日の流れの中でどういった感情が生まれるかを想像しながらやっている。そうでないと心理的な距離が広がってしまうので。

 たとえば天気を見て、「道が凍結しているから気をつけようね」とか、「今、空がきれいだよ」とか。まだまだバスケットは小さい業界なので、それ以外のところにどうアプローチするか。他の土俵に上がってそこで見せるしかない。

――キングジムとキングカズをかけたツイートは、思いつきだったんですか?

 瞬間的にパッと出てきました。カズさん(三浦知良)のニュースを見たあと、Twitterを眺めているときに、キングジムさんのツイートを見て。

 Twitter界隈では、よくあるやつなんですよ。分かっていてもボケて、先方から突っ込まれる。キングジムさんを含めて楽しんでもらえたのは良かったのですが、キングカズさんの存在を気軽に使ってしまったことを大変申し訳なく思っていて……。いつかきちんと謝りたいです。

――選手のソーシャルメディア利用の鏡だと思うのですが、一方で炎上するような目にあったことは?

 まだ、そこまで荒れたことはありません。運営する上で、極端な話はしないように気をつけていて。言葉遣いを荒くしないとか、なるべく王道でいられるように努めています。

 チームでの立ち位置も関係しているかもしれません。エースでやるような年齢でもないので(38歳)。エースで相手をけちょんけちょんにやっつける立場だと、好き嫌いを持たれやすいかもしれない。キャラクターとして、敵意を持たれづらいぬいぐるみのような雰囲気でやれればいいと思っている。性別も中性的になっていると思います。

――投稿ではタグをすごくうまく使っていますね。

 タグを研究しながら、おもしろいタグをつけるのを楽しんでいます。トレンドに出てくるタグをざっと見て、いったん自分の中で消化して、バスケットとつなげて何が投稿できるかを考えている。タグはアイデアの宝庫ですよ。

――選手にとって、どこの企業アカウントが参考になるでしょうか。

 基本的にシャープさん、タニタさん、キングジムさん、セガさんを押さえておけばいいと言われている。パインアメさんもおもしろいですよ。かぶり物をかぶったりしてお金をかけない突飛なプロモーションをする。森田アルミ工業さんも業界内で有名です。

――若手にアドバイスをするとしたら?

 自分のキャラクターをいかに確立するかにつきます。ひいてはプロとしての自分像を組み立てることにもつながるので。自分にキャラクターをつけて、ソーシャルメディアの中でそのキャラクターを動かし、リアルの世界に還元していく。この作業は、若手の選手はやっていくべきだと思う。それが自分を売り込んでいくことにつながります。

 若いときって、プレー以外で自分はどんなキャラクターかというのをなかなか説明できません。ソーシャルメディアで自分を出していけば、誰かが指摘して、自分の意外なキャラクターに気づくこともあるんです。

 情報発信が苦手でも、最初は試合日程だけ書く真面目なアカウントでいいんですよ。あそこにいけば、あの人が活動していると思ってもらえるだけで、1つつながりができたことになります。せっかくの場を放棄する必要はないと思います。



 伊藤へのインタビューを通してよく分かったのは、Twitterで成功しているのは偶然ではないということだ。企業アカウントを研究し、ユーザーの気持ちを推察し、トレンドも取り入れる。エンターテイナーであることを心掛けているのだ。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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