選手にも生まれた新たな可能性 JリーガーのSNS事情を考える (2)

木崎伸也
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提供:(公社)日本プロサッカーリーグ

近藤「なるべくコミュニケーションを取っている」

Jリーグの放映権のルールに抵触し、Facebookの投稿を削除した経験がある近藤。過去から学び、現在でも積極的なSNS運用を行っている 【宇都宮徹壱】

 そのエンターテイナーという点で、ジェフ千葉の近藤直也も大いに称賛されるべきだろう。インスタグラムやFacebookで、練習場のロッカールームの様子など積極的に写真や動画を投稿している。ただ、本企画の前編で書いたように、試合後のロッカールームを撮影した映像はJリーグの放映権のルールに抵触して削除せざるをえなかった。

 あの一件を、本人はどう捉えているのか。Jリーグキックオフカンファレンスで近藤に話を聞いた。

――問題になったのは、どんな動画だったんでしょうか。

 試合に勝ってロッカーに戻り、その雰囲気を伝えたいなと思って、選手の表情などを撮影したものです。

――Jリーグから削除要請が来てどう思いましたか?

 あ、ダメなんだと。そういう話をされたこともなかったので、初めて知りました。広報を通して、すぐ消してと連絡が来ました。

――納得がいかなかった?

 そうですね。自分の経験上、Facebookとインスタグラムでは動画の方が反応がいい。選手の普段の姿を見たいという声が多いんです。試合後の裏側は見ることができない場所なので喜ぶかなと思って、禁止されていることを知らずに載せてしまいました。決まりがあるなら仕方がないと思い、引き下がりました。

 ただ、試合だけじゃなく、選手だけしか見られないところを出していった方がもっと盛り上がると思う。緩和を考えていただけたらな、という思いはあります。

――ソーシャルメディアについて、若手のJリーガーにアドバイスをするとしたら?

 実は僕はTwitterで炎上して、Twitterをやめたことがあるんですよ。2016年10月のことです。試合後にゴール裏のサポーターともめてしまい、そのあとに弁明のようなつぶやきをして、逆に火に油を注ぐことになってしまった。

 負けてしまったので、僕らも申し訳ない気持ちでいたけれど、サポーターの方たちも怒りが収まらず、罵声を浴びせられた。僕も最初はおとなしくしていたんですけれど、カチンときちゃって、言い合いみたいになってしまって。ピッチを去っても気持ちが収まらず、弁明を含めて思いをつぶやいたら炎上してしまった。

 負けたのは僕らの責任なんですけれど、負けようと思ってやっているわけではなく、生活をかけてやっていると書いたら、言葉の一部を切り取って解釈する人がいて、生活をかけているのはおまえらだけじゃないぞと。コメントに対して受け流すことができず、イライラしてしまった。それならデメリットの方が大きいのでTwitterをやめようと思いました。

――それでも今はインスタグラムとFacebookで発信を続けていますね。

 今のところ両方とも、温かい雰囲気になっています。質問が来たら、必ず返しています。最近、距離感を縮めれば炎上しないかなと思っていて。コメントを返すことによって親近感がわく。なるべくコミュニケーションを取るようにしています。



 マーケティングの専門家の徳力基彦は、本企画の前編で「誤解で炎上しそうになったときに、もし普段からコミュニケーションを取っていたら、そういう趣旨じゃないと分かってもらえる」と語っていた。まさにその心得を、近藤は失敗の中から自分で学び取り、実践していた。とはいえ、痛い目にあわずにすむにこしたことはない。近藤の経験をJリーグ全体で教訓として生かすべきだろう。

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槙野「自分の率直な意見を伝えられる」

Jリーグにおけるソーシャルメディアの第一人者とも言える槙野は、「自分の率直な意見を伝えられる」ツールとしてSNSを活用しているようだ 【宇都宮徹壱】

 この企画の最後に、浦和レッズの槙野智章に話を聞いた。インスタグラムのユーモア溢れる投稿がファンを惹きつけ、フォローワー数は31万8000人を越える(3月8日現在)。Jリーグにおけるソーシャルメディアの第一人者だ。

――槙野選手は、Jリーガーはソーシャルメディアをやった方がいいと思いますか?

 やった方がいいと思いますね。自分の率直な意見・感想をダイレクトに伝えられるからです。

――近藤選手は試合後のロッカールームの動画を流して、Jリーグから削除要請を受けました。動画の投稿で何に気をつけていますか?

 いっぱい失敗した中から学びました。浦和レッズというクラブ、日本代表というチームの価値が下がらないようにすることが大事だと思っています。たとえば、チームの競合のメーカーが写ってしまったということがありました。

――ファンを楽しませるという点で意識していることは?

 普段SNSで発信していない選手の素顔を知りたいファン、サポーターの方々がいると思うので、そういう選手を知ってもらういいきっかけになると思って、僕以外の選手を出すことを心掛けています。

――Jリーグの新人研修に呼ばれて、ソーシャルメディアのアドバイスをするとしたら?

 間違ってもいいから、自分の意見や感想をしっかり発信することが大事だと思っています。その上で、チームをマイナスに見られないようにすることです。たとえばチームが負けているときにおちゃらけているような投稿は、そのチームはもちろん、応援してくださっている方の気持ちを考えたときにも間違いなくよくないです。ただし、自分の調子が悪いときこそ、SNSはうまく使わなければいけないと思っています。

 自分のコンディションが悪いときにSNSの発信を減らしてしまうと、逆に批判の的になると思う。悪いときほど、プラスの発信をしていくことが、自分の調子も上がるきっかけになると思います。

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 今回の取材を通して、サッカーに基本技術があるように、ソーシャルメディアにも基本があることが見えてきた。

「量より質」「会話の大切さ」「会話による炎上防止」「アクティブサポート」「協創」「8対2の割合」「言葉の体温」「1日の流れ」「トレンドタグの活用」「自分にキャラクターをつける」「悪いときにも発信」。

 個人的に印象深かったのは、徳力が前編で提案した「クラブ公認で、情報発信のボランティアを募集してはどうか」というアイデアだ。スタジアムだけでなく、デジタル空間にボランティアを広げる手法に大きな可能性を感じた。

 JリーグはJ1からJ3まで全国に大きなネットワークを持っている。クラブと選手、そしてサポーターが力を合わせてソーシャルメディアをうまく活用すれば、とてつもないムーブメントを起こせるはずだ。

<文中敬称略>

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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