Jリーグの1ステージ制復活とDAZN効果 2017シーズンを村井チェアマンが振り返る

宇都宮徹壱
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提供:(公社)日本プロサッカーリーグ

DAZN元年となった2017シーズンを村井チェアマン(左)に振り返ってもらった 【宇都宮徹壱】

 Jリーグの2018シーズンの日程が発表され、今季開幕への期待感が膨らむ今日このごろ。ここであらためて、昨シーズンのJリーグを振り返りたいと思う。とはいえ、ここで振り返るのは、単なる勝ち負けの話ではない。むしろJリーグの施策や戦略といった観点から、昨シーズンを総括したいのである。

 そのヒントとなるのが、Jリーグがシーズン終了直後のタイミングで発行している『PUB REPORT』。Jリーグ公式サイトを引用すると「誰もが気軽に参加し(Participate)、知り(Understand)、ともにつくる(Build)リーグを目指し、オープンかつフェアな情報開示を目的とし、2015年12月に創刊」とある。

 15年といえば、村井満Jリーグチェアマンが就任して2シーズン目に当たる。このPUB REPORT発行についてチェアマンは「(シーズンが終わって)できるだけホットなうちにファン・サポーターの皆さんにフィードバックして、居酒屋やパブで議論していただくのがもともとの趣旨でした」と語っている。ネット上からダウンロードできるほか、いずれは全国の図書館に寄贈することも検討しているそうだ。

 今回は、このPUB REPORTに記載されている、さまざまなデータや資料を元に、村井チェアマンに17年シーズンを総括してもらった。前編では、昨シーズンの2大改革ともいえるJ1の1ステージ制復活、そしてDAZNによるライブ配信について、決断の背景や評価を、チェアマン自身の言葉で語っていただいた。

 なお、このインタビューでは、デロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、デロイト)スポーツビジネスグループの木下喬任さんにも同席していただいた。デロイトはコンサルという立場から、ビジネス視点のコメントをPUB REPORTに提供している。チェアマンの総括について、第三者的な立場から「デロイトの見方」という形でコメントを寄せてもらっている。この方式をとることで、より立体的な総括とするのが狙いである。

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平均入場者数5%増は大きな伸び

──今回のPUB REPORTですが、真っ先に飛び込んでくる数字が、昨シーズンのJ1リーグの平均入場者数1万8883人です。16年シーズンの5.1%のアップ。この数字を村井さんはどう捉えていらっしゃいますか?

 過去の伸び率でいうと、5%というのは大きな伸びですよね。最近は1%や2%で推移していましたから。実はJリーグとしては、第8節までの平均入場者数に注目しています。第1節(2月25日)から第8節(4月22日)までが良い数字で推移していましたので、「今年はある程度はいけそうだ」という予想はしていました。

──第1節と第2節が開幕戦でボーンと上がって、それから少し下がってからゴールデンウィーク(GW)で再び上がりますね。第8節はGW前のタイミングですから、確かに8節分をひとつ区切りとして見るというのは理にかなっていると思います。

 2ステージ制だった16年のグラフと重ねてみると、1stステージの優勝争いが佳境となる第17節でボーンと上がっているんですよね。2ステージ制だと、想定したとおりの山ができている。ただし押しなべて平均にすると、1ステージだった17年のほうが安定した数字で推移しているんですよ。ちょうど去年のリーグ終盤は、台風が連続して上陸したので雨の試合が続きましたが、それでも大きく落ち込むことはありませんでした。

【素材:J.LEAGUE PUB Report 2017より】

──2ステージ制の実施が決定した時は、「4〜5年は続ける」というアナウンスがありました。それが結果として2シーズンで終了となり、再び1シーズンに戻すことになったわけですが、チェアマンとしてはかなり重い決断だったのではないでしょうか?

 私の(チェアマン)就任前に2ステージ制が決まっていて、一定の期間はそれを続けるという前提でパートナー各社、メディアの皆さまにはお話しさせていただきました。ですが決定後、いくつかの変動要素もあったんですね。たとえばACL(AFCチャンピオンズリーグ)の決勝が、11月の週末に増えるというのは、2ステージ制導入が決定した後だったんです。そうなるとJ1のレギュラーシーズンを、11月の第1週で終えなければならなくなってしまいます。中には10月末がホーム最終試合になってしまうクラブもある。

 まだまだ日本は、サッカー文化を根付かせなければならない状況であることを考えるならば、2ステージ制は続けられないという思いが私の中にありました。1ステージ制に戻したことで各方面にご迷惑をおかけすることになりましたが、幸いにも、多くのステークホルダーやクラブ、ファン・サポーターの皆様にご理解いただくことができました。

「山」を作りたかったワールドチャレンジ

「山を作りたい」という狙いで行ったという昨年のワールドチャレンジ。ドルトムントやセビージャを招いてJクラブが対戦した 【(C)J.LEAGUE】

──1ステージ制での一番の悩みどころは、中盤の中だるみだったと思います。昨年はサマーブレークのタイミングで「Jリーグワールドチャレンジ」と銘打ち、ドルトムントとセビージャを招いて、浦和レッズ、鹿島アントラーズ、セレッソ大阪が対戦しました。あれは思いのほか盛り上がりましたね。

 中だるみ(対策)と言うより、一番は「山を作りたい」という考えがありましたね。ステージ優勝の山場の創出も確かにあるのですが、一方でワールドクラスのクラブを呼ぶことによって注目を喚起することもできる、ということを実感しました。ドルトムントといえば以前、川崎フロンターレがプレシーズンマッチで呼んだことがありましたよね?

──15年の7月でしたね。0−6で川崎がボコボコにされましたが。

 でもあの一戦で川崎が目覚めて、その後のレベルアップ、そして優勝までつながっていきましたよね。あのときはクラブ主導でのマッチメークでしたが、あの試合を見たときに「世界水準で戦う機会をもっと作らないといけない」と思いましたね。

──今回は主にJリーグ主導だったわけですが、埼玉スタジアム2002での浦和対ドルトムントは半分くらいが黄色になっていましたね。向こうもかなり本気モードでしたし。

 みんな必死でしたね。試合前にドルトムントの関係者を囲んでウェルカムランチをしたのですが、「試合前にピッチに水をまいてほしい」と直談判してきました。それくらい彼らは勝負にこだわっていましたね。今年はワールドカップ(W杯)があるので開催が難しいのですが、今後もぜひ続けていきたいと思っています。

──それは楽しみです。観客に関するトレンドで、ほかに気になるものはありますか?

 平均年齢と平均観戦頻度ですね。J1に限ってみると、平均年齢は16年から17年が+0.1歳。これは前年の+0.5歳、前々年の+0.7歳から明らかに下がっている。それから平均観戦頻度ですが、年間16回以上、つまりホームゲームはほとんど全試合来る方が37%くらいいるのですが、川崎やC大阪は、もっと低頻度の来場が増えているんです。これらのデータから、最近ファンになった若い世代のお客さんが増えてきた、と考えることができるのではないでしょうか。

【素材:J.LEAGUE PUB Report 2017より】

【デロイト トーマツの見方】
 成長率5.1%増加は純粋にすごいことだと思いますが、単純に量だけでは成果をはかることはできないと思います。というのは、入場者数の増減には、天候や曜日、対戦カードやスタジアムの大きさ、プロモーションのかけ方など、さまざまな要素が含まれているからです。それを、どう切り取るかで評価が違ってきますので、われわれは量もさることながら質の部分も同じように重視したいと思っています。

 その質の部分ですが、今年はチェアマンも指摘されていた観戦者の平均年齢にみてとれます。これまで+0.7歳、+0.5歳と上がっていたものが、昨年は+0.1歳にとどまっています。これは観戦者を若年層に戻していかなければならないという部分で非常にポジティブな数字ですね。質の面においても変化の兆しが見えたと言えるのではないでしょうか。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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