時代とともに激変したファンとの距離感 JリーガーのSNS事情を考える (1)

木崎伸也
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提供:(公社)日本プロサッカーリーグ

昨年、JリーグからSNS投稿の削除要請を受けたことがある千葉の近藤 【(C)J.LEAGUE】

 ソーシャルメディアは他業界と同じように、スポーツ界でも極めて重要な情報発信の場だ。Jリーグも公式Twitterでこまめな投稿を行い、YouTubeの公式チャンネルなどで各試合のハイライトを配信するなど、新たなファンを発掘しようとしている。もちろん選手にとっても、欠かせないツールだ。ソーシャルメディアを利用すれば、第三者を経由せずに自ら言葉を発信することができる。

 ただし、そこにはリスクも潜んでいる。発言の一部が切り取られて炎上することもあれば、意図せずルールに抵触してしまうこともある。

 たとえば、昨年10月、J2・ジェフ千葉の近藤直也が試合直後のロッカールームの動画をFacebookに投稿したところ、Jリーグからの要請ですぐに削除したという一件があった。前後を含めた試合の放映権はJリーグが持っており、それをDAZNに販売しているからだ。

 Jリーグとしてはすべてを規制しているわけではなく、クラブが自らの公式ソーシャルメディアでそのような動画をアップすることを認めている。選手個人のFacebookアカウントだったことが問題だった。

 Jリーグの広報はこの件についてこう振り返る。「近藤選手の投稿については、気持ちは分かりますが、ルールとしては見逃すわけにはいかないので迅速に対応しました」。とはいえ、近藤のクラブを盛り上げたいという思いは、Jリーグとして評価すべきではないか。

 それについては、「近藤選手はむしろ他の選手よりも積極的にSNSで発信することで、J2にいるジェフ千葉というクラブにとっては貴重な存在ですし、広報としては高く評価すべき模範的な存在です。でも、模範だからこそルールに則って行動してほしいのが本音です」と語る。

 いったい選手は、どうソーシャルメディアを活用すべきか? 専門家、他スポーツ界での成功者、浦和レッズの槙野智章、そして近藤へのインタビューを通して、知っておくべき心得や新たな可能性を2回にわたって探る。

量を求めるならマスメディアの方が断然効率

アジャイルメディア・ネットワークで取締役を務める徳力。同社は横浜FMにソーシャルメディアのアドバイスをした経歴を持つ 【(C)J.LEAGUE】

 まずはデジタルマーケティングの専門家として、徳力基彦(アジャイルメディア・ネットワーク取締役)に話を聞いた。今なおブロガーとしても活動を続けるマーケティング界の第一人者で、サッカー日本代表の試合をツイートしながら観戦する熱烈的な日本代表サポーターでもある。

――徳力さんの会社は去年、横浜F・マリノスに対して、ソーシャルメディアのアドバイスをしたそうですね。どんなことを伝えたのですか?

 マーケティングの業界では、「量と質問題」というものがよく議論されます。従来のマスマーケティングの世界では、大勢の人に知ってもらうという認知の「量」が重視されることが中心でした。ただ、その価値観をデジタルやソーシャルメディアの世界にそのまま持ち込むと企業は間違った手法に走りがちです。例えば、とにかく大量の広告をユーザーのスマホ画面に表示したり、一度サイトに訪問した人をいつまでもバナー広告で追いかけたり、プレゼントをばらまいてTwitterのフォロワー数をとにかく増やそうとしたり。

 でも、実は同じ「量」でも、ただタイムラインを眺めているだけの1万人よりも、リツイートをしてくれる100人の方が企業にとって意味がある可能性もあるわけです。そういう意味で、私たちはソーシャルメディアの活用においては、単純な「量」ではなく関係の深さや濃さ、つまり「質」を重要視している立場です。

 弊社が去年マリノスさんと議論させていただいたのは、単純にマリノスが大勢の人に広告を露出する施策を実施するのではなく、既存のファンの方々と一緒にマリノスを盛り上げる取り組みをやってみませんかということ。なぜマリノスが好きか、Jリーグの試合を観戦すると何が楽しいのか、ということをもっとファンに発信してもらうための実験をしましょうということでした。

 狙いとしては、観戦をよりカジュアルにすることと、ファン・サポーターが良かったと思うポジティブなものを、クラブと一緒に発信していってもらうこと。プロ野球の横浜DeNAベイスターズが、サラリーマンの飲み会の場所を居酒屋から球場へ持っていったというのが典型例ですが、マリノスの試合を観戦するという楽しさを、コアなサポーターの方々だけでなく、もっと多くの方に体験してもらうためにどうすれば良いかを模索することです。

――選手にアドバイスするとしたら、ソーシャルメディアでは量より質の方が大事だと。

 量を求めるなら、マスメディアの方が断然効率がいいです。サッカー選手もテレビ番組に出演した方が大勢の認知は得られますよね。広告の面でも、日本ではソーシャルゲームやスマホのニュースアプリの会社も、みんなテレビコマーシャルを使っています。ただし、テレビCMは基本的に15秒しか流せないので、テレビCMだけで顧客と関係の深さを求めようと思うと、大量の広告費が必要になります。

 一方、ソーシャルメディア上では、1人1人との細かいコミュニケーションが可能です。単純なフォロワーの数よりも、まずはフォロワーの人たちが投稿を楽しみにしてくれているか、反応してくれているかの方が大事で、それが分かっている人は自然とフォロワーの数も増える傾向にあります。

――では、選手がソーシャルメディアをやる上で、何がゴールになると思いますか?

『グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略』という本に、ソーシャルメディア活用の5つの戦略が出てきます。その5つとは、傾聴、会話、活性化、支援、統合。企業で言えば、傾聴はリサーチ、統合は商品のアイデアを出してもらう共創という感じです。

 サッカー選手の場合、重視すべきなのは「会話」と「支援」だと思います。以前はファンが選手と話したくても、ファン感謝デーに数十秒話せれば御の字ですよね。それがソーシャルメディアならファンとの継続的な会話が簡単にできる。選手からの直接のコミュニケーションはファンへの一番のプレゼントです。

 また、ファンとの直接のコミュニケーションが苦手な選手であっても、クラブの情報などを自身の言葉に変えて投稿するだけで、ファンに届きやすくなり、クラブを支援することも可能になります。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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