札幌といわきが参戦する“国際大会”とは? パシフィック・リムの仕掛け人が語る物語

宇都宮徹壱

特定のスター選手に依存せずに「プロパティを育てていく」

いわきFCのメーンスポンサーである株式会社ドームがスポンサーとして大会をサポートしている 【写真は共同】

 そんな中、スポンサーとして救いの手を差し伸べたのが、株式会社ドームであった。ドームは、米国スポーツアパレルメーカー『アンダーアーマー』の日本総代理店であり、いわきFCのメーンスポンサーとしても知られている。「社長の安田(秀一)さんは既成概念にとらわれない、グローバルな視点を持った方ですので、この大会の意義に大いに賛同していただきました」と中村。かくして、大会正式名称は『Pacific Rim Cup 2018 Powered by Under Armour』となり、いわきが参戦することが決まった。

 では、札幌の出場はどのようにして決まったのか。昨年11月に大会の開催が決まったとき、すでに多くのJクラブはオフのキャンプ日程が決まっていた。そんな中、手を挙げたのが札幌。中村いわく「野々村(芳和)社長が、面白いことにチャレンジする人だったので共感していただきました。それと、北海道とハワイ州が姉妹提携を結んだことも追い風になりました」とのこと。ドームの安田社長と札幌の野々村社長。ふたりのユニークな経営者の理解を得られたことで、プロジェクトは大きく前進していくことになる。

パシフィック・リムカップに出場するバンクーバー・ホワイトキャップス 【(C)Vancouver Whitecaps FC】

 さて、いわきと札幌が対戦するMLS勢だが、実は「これ」といったビッグネームはいない。コロンバスについては「(ゴンサロ・)イグアインの兄貴(フェデリコ)がいますね」。バンクーバーについては「かつては小林大悟やディビッドソン純マーカス、そして工藤壮人がプレーしていましたが、今は(日本人選手は)いません」。10年前のベッカムとまではいかなくても、もう少し話題性のある選手がいたらと思ってしまう。しかし中村は「特定のスター選手に依存するのではなく、大会を含めたプロパティ(財産)を育てていきたいんですよ」と意に介さない。

「僕は1回きりの成功ではなく、今後も続いていく大会にしたいんです。今年成功したら、19年はMLSとJリーグが提携するシンボルとなるような大会にしたい。そして20年には、メキシコや韓国やタイのクラブにも声を掛けて、本当の意味での『環太平洋の大会』にしていきたいんです。続けていくことで大会の認知度は高まるし、入場数やスポンサーも増えていく。ですから、最低でも3年間は続けていくのが前提ですね」

 思えば10年前のパンパシは、育てようと思った矢先によそに買われて、そのまま休止の憂き目に遭ってしまった。スポーツビジネスが盛んな米国だが、一方で「プロパティを育てていくことへの関心が薄い」と中村は指摘する。今回のパシフィック・リム開催は、中村自身の10年越しの悲願であると同時に、「プロパティを育てていく」文化を根付かせるチャレンジがあり、その向こう側には日米を巻き込んだ環太平洋サッカーの発展という壮大な夢がある。その第一歩を見届けるべく、私も間もなくハワイに飛び立つことにしたい。

<文中敬称略>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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