福島県2部から「年間売上100億円」へ 株式会社ドームといわきFCが目指すもの

宇都宮徹壱

読売ジャイアンツと加藤ミリヤといわきFC

いわきFCの面々。右からハウストラ監督、ドームの安田社長、いわきスポーツクラブの大倉社長 【宇都宮徹壱】

「どうにも結び付かない」──最初に感じたのは、そんな違和感だった。

 会場の有明コロシアムに到着したのは、1月13日の16時すぎ。すでにイベントが始まって1時間が経過したタイミングでメディア席に案内される。配布されたプリントによれば、プログラムは第2セッションに入っており、まずは読売ジャイアンツの高橋由伸監督を招いてのトークショー、続いてシンガーソングライターの加藤ミリヤのライブパフォーマンスが行われるようだ。前の取材が長引き、一番のお目当てである第1セッション「いわきFC事業構想発表」には間に合わなかったが、イベント終了後にあらためて会見が行われるということなので、まずは一安心である。

 さて、読売ジャイアンツと加藤ミリヤ、そして「いわきFC」という聞き慣れないサッカークラブ。この3者の共通項は、いったい何か? それは、この日のイベント「ドームキックオフパーティー2016」を主催した、株式会社ドームである。1996年の設立から今年で20周年を迎える同社は、当初はテーピングの輸入販売会社としてスタート。2年後の98年に、米国のスポーツアパレルメーカー『アンダーアーマー』の日本総代理店となり、15年の時点で従業員数328名、売上は400億円を誇る。昨年にはジャイアンツと5年間のパートナーシップ契約を、そして加藤ミリヤともサポートパートナー契約をそれぞれ結んでおり、今回のキックオフパーティーで大々的にPRされた。

有明コロシアムでのキックオフパーティー。加藤ミリヤも登場して会場を大いに盛り上げた 【宇都宮徹壱】

 問題は、いわきFCである。ドームは昨年12月11日、いわきFCの運営を主幹事業とする『株式会社いわきスポーツクラブ』を設立。新会社の社長には、昨年まで湘南ベルマーレの代表を務めていた大倉智氏が就任した。そして監督には、元オランダ代表でサンフレッチェ広島でもプレーした(95〜96年)、ピーター・ハウストラ氏を招へい。さながらJクラブのような陣容であるが、そもそもいわきFCというクラブはどのカテゴリーに属しているのか? 実はJFLの下の、東北リーグ1部・2部の下の、福島県リーグの2部。J1から数えたら8部リーグに相当する。

 これまで、JFLや地域リーグを定期的に取材し続けてきた私でさえ、寄り付こうとしなかった県リーグ2部。そこから上を目指そうとしているいわきFCが、日本人なら誰もが知っているプロ野球の名門球団や、若い女性の間で絶大な人気を誇るアーティスト兼ファッションアイコンと並んで、スポーツ関連企業のイベントで大々的に扱われている。「どうにも結び付かない」その奇妙なパースペクティブこそが、私を有明コロシアムに向かわせた一番の要因であった。

なぜ、いわき市からJを目指すのか

 これまで私は10年以上にわたり、取材を通して地域リーグや県リーグからJリーグを目指す地方クラブをいくつも見てきた。首尾よくJ2やJ3にたどり着いたクラブもある一方で、夢破れた末に名前を変えて今も下部リーグで活動を続けているクラブもいくつか知っている。そんなわけで「●●からJを目指す!」というクラブについては、私はいつも慎重にアプローチするようにしている(それは昨年から取材を続けているFC今治についても例外ではない)。

 では、いわきFCの場合はどうか。私がまず面食らったのが、彼らの目標のスケール感。いわきFCが掲げる3つの目標のうち、まず目を引くのが「いわき市を東北一の都市にする」というものである。公式HPでの大倉社長の言葉を借りると「ただJ1のチームになることだけではありません。年間売上は日本では断トツの100億円を達成して世界のビッグクラブの仲間入りをします」。さらに、Jリーグが開催できるスタジアムを作ることで「いわきFC観戦を中心とした観光や飲食などへの消費によるいわき市への経済効果を拡大させ、いわき市全体をわれわれが盛り上げ、成長につなげていきたい」という壮大な夢が語られている。

 福島県いわき市は、太平洋に面した浜通りの南部にある、県内で最も大きな面積を持つ地方都市である。人口は約32万8000人で、仙台市(108万3000人)、郡山市(33万6000人)に次いで東北で3番目。2年前、J3の福島ユナイテッドが初めていわきでホームゲームを開催した際に、福島の鈴木勇人代表から聞いたのが「今でこそ尚志高校や富岡高校が有名ですが、少し前でしたら小中高はいわきがサッカーどころでした」という話。余談ながら、元日本代表の高萩洋次郎もいわきの出身だ。

 ではなぜ、いわき市からJを目指すのか。その一番の理由は、今年の春にいわき市に完成する巨大な物流センター『ドームいわきベース』が大きく影響しているのは間違いない。ドームの安田秀一社長は、物流センターありきでプロジェクトがスタートしたことをすんなり認めた。

「いわきに物流センターを作るというのが最初です。でも、『いつかサッカーチームを作りたい』というのがありました。たまたま自治体とのつながりがありまして、物流センターを作る土地がかなり広かったので『ここにサッカーグラウンドを作れるのではないか』というところから、このプロジェクトが始まったということですね」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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