ファンから惜しまれた長友のトルコ移籍 地元メディアは放出を疑問視、監督批判も

神尾光臣

前半戦は好調、ファンからも再評価される

出場機会を求めて、長友はガラタサライへ移籍した 【Getty Images】

 現地時間10月24日、セリエA第10節のインテルvs.サンプドリア。左サイドバック(SB)として先発出場していた長友佑都は、終盤の84分に交代を命じられた。その際、5万人を超えるスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァの観客はスタンディングオベーションで彼を迎え入れていた。

 プレーの内容には大いに説得力があった。戻りながら相手のスルーパスをカットするなど、守備は常に集中していたし、攻撃では積極的に縦パスを狙ってイバン・ペリシッチを走らせ、思い切り良く狙ったロングシュートはGKを強襲した。

 その試合だけ突発的に良かったわけではない。第8節のミラノダービーでは3−2の勝利に貢献し、続くナポリ戦(0−0)でもホセ・マリア・カジェホンを完封。昨季の対決ではボール処理が甘いところを拾われて点を決められた相手をきっちりと抑えた。目玉補強の1つだったダウベルト・エンリケを差し置いて、左SBとしてスタメンの座をキープし、チームの上位快走に貢献する活躍。昨季はミスが続いてファンから信頼を失い、放出さえうわさされていた男がそんな努力の成果を見せれば、ファンは素直に再評価する。

「悪ければブーイングも浴びるし、それはインテルの選手としては普通のこと。でも、スタンディングオベーションは自分の誇りというか、自信になりますね」。試合後、長友はそう語っていた。コンディションの良さも再三に渡って強調していたし、ルチアーノ・スパレッティ監督は「長友には限界もあるが、たくさんの良いところもある」と地元メディアに長友への賛辞を語っていた。

 そんな長友が、11月5日の第12節トリノ戦を最後にリーグ戦で先発出場する機会を失い、1月31日にトルコのガラタサライへ移籍することになった。「私には、(ワールドカップ/W杯に向けて)彼が出場機会が得られるところに移るべきかどうかを検討したがっているようにも感じられる。ただ申しわけないが、私からは何も約束できない」と、スパレッティ監督は移籍へ背中を押した。長いシーズン、スタメンの座を奪われることも普通に起こり得る。だがサンプドリア戦までのムードを考えれば、よもや移籍にまで発展するような展開になるとは想像がつかなかった。

スパレッティ監督が気にした長友の“限界”

スパレッティ監督は好調だった長友をスタメンから外した 【Getty Images】

 結果だけを見れば、外す理由は見当たらなかった。スパレッティ監督が気にしたのは、前述のサンプドリア戦後に口にした長友の“限界”という部分だったのだろう。代表ウイーク明け11月19日のアタランタ戦からは、左SBにダビデ・サントンを起用した。「クオリティーは高い。左でも右でも遜色なくボールを蹴ることができるし、攻守両面で働ける。何よりセットプレーにおいては長友とは別物だ」と、足元の技術の確かさと戦術眼、体躯(く)の良さを強調していた。

 スパレッティはまた、途中出場ながらダウベルトにもチャンスを与える。彼については、爆発的なスピードとフィジカル、左足の精度をほめていた。両者とも、長友が持ち合わせていないものを持っている。それに加えて、長友についてはもう1つダメ出しもしていた。「ハーフウェーラインから向こうのエリアにおけるプレーの選択は、彼が有する一番のクオリティーというわけでない」。つまり、攻撃面でのプレーの幅の少なさに不満を抱いていたということだ。その点でさらに能力の高いと思われる選手を充当し、戦力の底上げを図るのは監督として当然のことだろう。

長友の代役も不安定なプレーが続く

長友に代わって左SBにサントン(右)らが起用されるも、チームは失速 【Getty Images】

 問題は、それらの選択が結果に結びついていなかったということである。攻守のバランスが評価されていたはずのサントンは、守備で破綻をきたして失点に絡む。ダウベルトにしても左足で流れを変え、ゴールに結びつけるようなプレーはなし。控えの立場を覆せず、地元メディアからは「謎の存在」「高い移籍金に見合ったかは疑問」とたたかれた。時を同じく、チームも急に失速し勝利から見放された。

 彼ら2人がそんな調子だったので、スパレッティ監督はスタメン起用を断念。右SBを主戦場としていたダニーロ・ダンブロージオやジョアン・カンセロまで左に回して使うことになる。しかし、それでも芳しい結果は出ないまま。欲を出して長友を外し、別の選手を試した結果、かえってこのポジションが不安定になった感は否めない。

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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