監督が代わっても信頼を得続ける長友佑都 スパレッティが評価した戦術理解の高さ

神尾光臣

新シーズンで失地回復へ

一時は戦力外とみなされた長友だが、スパレッティ監督のもと著しい向上を果たしている 【Getty Images】

「長友は荷物の準備ができている」
「スパレッティ監督下では構想外」

 シーズンオフの間、長友佑都の去就についてイタリアの地元紙はこんなことを書きたてた。またしてもチャンピオンズリーグ出場権獲得に失敗したインテルは、ルチアーノ・スパレッティ監督の招聘(しょうへい)を決定。高度な戦術を駆使し、ローマやゼニト・サンクトペテルブルクで国際的にも実績を挙げた名将である。それに伴い戦力補強も行われるため、長友は放出されるだろうという見通しを立てていたのである。左サイドバックの序列から落ち、決定的な失点に絡むミスも度々犯した昨季の状況では、低評価も仕方のないところだった。

 ところがどうだ。新監督は長友を残し、開幕1、2節には先発出場をさせる。良好なコンディションを保った長友は、8月31日のワールドカップ・ロシア大会アジア最終予選、日本vs.オーストラリア戦(2−0)で先制ゴールをアシストした。新戦力が加入し、ベンチに回っても存在感を失うことはない。9月16日、第4節のクロトーネ戦では途中出場からこう着した試合を動かした。

 戦力外とみなされた男が、新シーズンで失地回復へと向かう。優れた監督のもと濃密な練習を通し、長友は著しい向上を果たしているのである。

プレシーズンで受けた細かい指導

長友は、チーム合流初日からみっちりと練習を積まされた 【Getty Images】

 取り巻く空気の違いは、7月のブルニコ合宿当初から表れていた。夏期休暇を終えてチームに合流した長友は、初日からみっちりと練習を積まされた。

 戦術の浸透を図るため、スパレッティ監督はポジション別の練習から始めた。その中で長友は、DF担当のコーチから実に細かく指導を受けた。ラインの上げ下げ、縦に出された時のブレークに加え、ボールの位置に基づいた体の向き方、視野の取り方までもだ。しかも練習では、積極的に主力メンバーに組み込まれていた。

 本当に肩をたたかれている立場なら、プレシーズンで主力組として練習をさせないばかりか、別メニューで調整させられることもある。一方、スパレッティ監督には長友をまず見てみようという気持ちがあったようだ。事実、就任当初の記者会見では、去就についての明言は避けながら、彼の人間的な資質についてかなり踏み込んだ発言をしていた。まだ顔を合わせていないころの話だ。

「真面目な男。プレーするときは全力を出して障壁を乗り越えてきた素晴らしい人間だ。良い結果も残せばミスもしてきたが、それは全ての選手がそう。プロサッカー選手としての姿勢については、誰も異論は挟めないはずだ」

 そして合宿合流から数日後、スパレッティ監督はクラブ幹部に「ユウトを残してほしい」とリクエストを出した。

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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