ファンから惜しまれた長友のトルコ移籍 地元メディアは放出を疑問視、監督批判も

神尾光臣

放出を嘆くイタリアメディア

イタリアでは「過小評価されている」など、長友の放出を疑問視する報道が出た 【Getty Images】

 チームの不安定な様子は傍目にも明らかだったので、長友が戦力外扱いにされ、移籍話が広がったときは、さすがに地元メディアの間でも疑問が飛び交うようになった。イタリア衛星放送スカイ・イタリアのコメンテーターを務める元イタリア代表のアレッサンドロ・コスタクルタは、番組内で「私に言わせれば長友は過小評価されている」と語っていた。

『レプッブリカ』紙で長年インテル番を務めるアンドレア・ソレンティーノ記者は、こうまくし立てていた。

「結果を見れば、スパレッティの判断が間違っていたのは明白だ。サントンはミスを続けたし、その後もカンセロのコンバートなどよく分からないことばかりだ。仮にユウトがパフォーマンスを落とした昨季の状態だったら戦力外も仕方ないが、今季はチームの中で一番向上を見せていた選手の1人だったじゃないか。25年カルチョを追うと、時々つじつまの合わないことが起こる。ピッチでのプレーだけを判断基準にすれば、むしろ彼を外す理由などどこにもなかった」

 結局31日、長友はイスタンブールへと飛び、ガラタサライへの移籍を決めた。2月1日の『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は長友の移籍に関する記事を掲載し、「現在でも日本代表の座が危ないということにはなっていなかったはず。だがW杯に向けてのコンディションを気にしたあたりは、日頃から食事に気を付け自主トレにも余念がなかった彼らしい決断」という見方を示していた。 

苦しい状況が続くインテルの経営事情

 もっともインテルには長友を移籍させなければならなかったという事情があったようである。31日夜に移籍市場がクロージングした直後、インテルのピエロ・アウジリオSD(スポーツディレクター)は複数の地元メディアに対し、長友やジョアン・マリオを放出したオペレーションについてこう言っていた。

「出場機会の少なかった選手に解決策を与えたし、それなりのクラブに入れてあげることができた。さらに年俸を下げることができたし、まとまったレンタル料も入った」

 中国の蘇寧グループの資本参入以来、経営の立て直しへと向かっているインテルだが、依然UEFA(欧州サッカー連盟)からはファイナンシャル・フェアプレー制度上の経営監視下にある。とはいえ、そこまで金を削ってハビエル・パストーレ(PSG)の期限付き移籍交渉に失敗していれば世話はないのだが……。

インテリスタからの温かいコメント

ファンから温かいコメントが寄せられた長友。インテルの判断は正しかったのだろうか 【Getty Images】

 長友がインテルの監督や選手たちにエールを送り、クラブやファンへの感謝を述べたメッセージをSNSに投稿すると、そこにはインテリスタからの温かいコメントがたくさん付けられていた。これまで度々ミスに絡み、SNSでは割と厳しいことも言われていたのだが、今回はほとんどなかった。今季のパフォーマンスがファンの目にどう映っていたかは、それだけで明白である。

 イタリアでは「ユニホームを尊重する」という言い方をよくされるが、チームの為に汗をかくことこそ、イタリアのファンが求めるもの。

「もっと実力があると言われる連中が君(長友)みたいに一生懸命やっていたら、インテルはとっくに低迷から抜け出しているのに」

 あるファンはそう嘆いていた。

 努力して自らのコンディションとチームのムードを保ち、今季は実績も出していた長友をシーズン半ばで見切るのは、本当に正しい判断だったのだろうか。

 長友がガラタサライでどんなプレーを見せ、インテルの成績が今後どうなるのかを通して、その答えが出る。

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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