“愛媛でもできる”青年監督が描く夢 「母校を超えるようなラグビーを」

斉藤健仁

選手として高校日本一、指導者としても花園へ

東海大仰星高時代に選手として全国優勝し、今は松山聖陵高を率いる渡辺監督 【斉藤健仁】

 12月27日から今年も大阪・東大阪市花園ラグビー場で、「花園」こと、第97回全国高校ラグビー大会が始まった。かつて花園で日本一に輝いた選手が、決してラグビーどころとは言えない愛媛の地で、大学卒業後、指導者となり、再び全国制覇を目指して日々奮闘している。

「西高東低」、「私立優勢」の高校ラグビー界では、大学同様に、同じ高校に20年、30年と指導する監督もおり、出場全51校の監督の平均年齢は約45歳、平均すると10年以上、ひとつの高校で指導し続けていた。そんな中、20代の監督はたった2人のみ。そのうちの1人が現在29歳、監督として6年目を迎えている松山聖陵(愛媛)の渡辺悠太監督である。

大学時代の大ケガでトップリーグを断念

高校時代からラグビーへの熱い思いを評価されていた渡辺監督(中央) 【斉藤健仁】

 渡辺監督は、東海大仰星高時代は土井崇司監督、湯浅大智コーチ(現監督)の下、HO木津武士、SO山中亮平(ともに神戸製鋼)ら将来の日本代表や、先発15人中9人がトップリーガーとなる中で、身長166cmと小柄ながらも正WTBとして、同校の2006年度の花園優勝に貢献した。
「すごくハートの強いタイプの選手で、WTBとして外から徹底的に指示していました。ラグビーに対する造詣も深いし情熱的でしたね!」(湯浅監督)

 渡辺監督は東海大に進学した後もラグビーを続け、FLリーチ マイケル、PR三上正貴、WTB/FB豊島翔平ら(いずれも東芝)といった同期と切磋琢磨しつつ、大学選手権優勝を目指した。ただ4年春の練習試合で左膝の前十字じん帯を切ってしまう大ケガをし、選手としての夢をあきらめざるを得なかった。「本当はラグビーを(トップリーグで)続けたかったのですが、身体も小さかったので、なかなか厳しいものがありました」(渡辺監督)

「スキルじゃない部分も教員は教えないといけない」

渡辺監督の指導を受けた松山聖陵の選手たちが花園を走り回った 【斉藤健仁】

 そこで、両親が滋賀県の教員で、父親がフェンシングの指導者だったこともあり、トップリーガーから教職に方向転換する。大学卒業後、1年間、滋賀の高校で講師を務めている時、かつて松山商業高ラグビー部の監督として花園にも出場し、故・仙波優(WTB、関東学院大学→トヨタ自動車)らを指導した渡部正治先生が校長を務めている松山聖陵から声をかけてもらい、縁もゆかりもなかった地でラグビー指導者としての道を歩み始めた。

 ただ、最初はトップリーグや日本代表で活躍する高校や大学の先輩や同期の姿を見て「うらやましかった」と振り返る。
 恩師のひとりである湯浅監督には「ナベ(渡辺監督)、3年我慢したら、自分の選んだ道が正しかったと思える」と言われ、また強豪のひとつである御所実業の竹田寛行監督には「(全国でトップレベルになるには)20年、我慢しないといけない」と諭されたという。

 実際に3年間、松山聖陵でラグビーを指導すると、渡辺監督は「めちゃくちゃ楽しい!」と思えるようになっていた。「若い考えだと思いますが、僕より選手として経験が少ない先生たちが、どうしてすごいチームを作るのか不思議でしょうがなかったんです。スキルじゃない部分も教員は教えないといけないし、私生活や規律の部分を大事にしていたらやっぱり丁寧なラグビーになってくる。考えながら指導する楽しみと、僕を信じてきてくれる生徒にいい思いをさせてあげたいという気持ちが芽生え始めた」

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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