“愛媛でもできる”青年監督が描く夢 「母校を超えるようなラグビーを」

斉藤健仁

WTB小島「渡辺先生は生徒よりも熱かったです」

中心選手として活躍したWTB小島優人 【斉藤健仁】

 今年度の愛媛国体の7人制ラグビー(成年男子)で準優勝したチームの中心選手だったように、渡辺監督はまだまだ身体が動くこともあり、自分でプレーしながら選手たちを指導。中心選手のひとりだったWTB小島優人(3年)は「渡辺先生は、若いし、生徒よりも熱かったです。練習中も本気で来てくれて、スキルも高いですし、いい練習になっていましたね」と語ってくれた。

 松山聖陵で指導して5年目となる昨年度、高校日本代表候補だったキャプテンHO三好優作(現・明治大1年)という強力な突破役がいたこともあり、渡辺監督は指導者として初めて、松山聖陵としては39年ぶりに花園の地を踏むことになった。3回戦で優勝した東福岡(福岡)に0対91で敗れたものの、2勝を挙げて「愛媛の人間でもできる。土台を作ることができた」(渡辺監督)

優勝経験のある茗溪学園から先制トライ

茗溪学園を相手にFW周辺で攻める戦い方で先制トライを奪った 【斉藤健仁】

 再び、花園を目指して戦い始めた今年度、新人戦で三島に7対7で引き分けて3位からのスタートになった。4月の四国大会予選では三島、新田を破って優勝し、四国大会でも3位となった。そして花園予選決勝では新田に33対7で快勝し、2年連続3度目の花園出場を決めた。

 渡辺監督の2度目の花園となった今年度の初戦の相手は、優勝経験もある伝統校の茗溪学園(茨城)だった。松山聖陵のFWは全国大会出場校の中で5番目に小さく、相手よりも体重で平均10kgほど少なかった。

 それでも展開ラグビーに強みを見せる相手のアタックを封じるため、風上でもキックをあまり蹴らず、FWの近場の攻撃であるモールやピック&ゴー、さらには昨年度までNo.8だった小島をWTBとして起用しつつ、SO濱田桂右(3年)とともにワンパスで使うなどスローテンポな戦い方に徹した。「完全にはまったなという感じでした。7対0、14対7でもいいと思っていました」(渡辺監督)

逆転負けも「戻ってこられて幸せでした」

後半23分に3点差に迫るが、その後に突き放された 【斉藤健仁】

 見事にプラン通りに戦った松山聖陵は前半8分にPR橋本龍河がトライを挙げて7対0とリードする。しかし、相手にボールを動かされて27分、ロスタイムにトライを許してしまい7対10と逆転を許す。ただ、前半30分で3点差は、渡辺監督の想定内だった。
 後半3分、相手にトライを奪われたが、23分に松山聖陵がボールをキープし続けてトライを返して、14対17と3点差に迫る。だが、その後、松山聖陵は相手のプレッシャーの前にいい形を作ることができず、トライとPGを許してしまい、結局14対27で敗戦し、今年度は1回戦で姿を消した。

 渡辺監督は2度目の花園でのチャレンジを「やはり(花園は)甘くないですね。今年度は一歩一歩、登っていって、最後に冬にまとまれたので、やってきたことは間違いじゃないと思います。花園は一番生徒を成長させますし、戻ってこられて幸せでした。愛媛に戻って目標を再設定して、来年も帰って来られるように頑張りたい」と振り返った。

 また試合終了後、一番大きな涙を見せていたキャプテンのNo.8谷脇秀志(3年)は「渡辺先生に(東海大仰星が大事にしている)『目配り、気配り、心配り』をしろと言われて、3年で意識できるようになったかなと思います。去年はベスト16だったので、今年はその上のベスト8という目標を立てていました。花園は出るところではなく、勝つところとだと思っているのですが、それが達成できなくて悔しい」と目を赤くしたままで答えてくれた。

夢の母校撃破へ「走るだけです」

試合後、選手たちに声をかける渡辺監督 【斉藤健仁】

 最後にまだ29歳の渡辺監督に、今後の指導者としての目標を聞くと「15人一体となった東海大仰星を超えるようなラグビーをしたい」と語気を強めた。

 さらに「まだ練習を1年間でやりきれない部分もあるので、他の先生たちに少しでも近づいて、僕が土井先生にさせてもらったような経験を生徒に教えてあげたい。また指導者がいない、選手の人数がいないといったところから逃げずに、その年、その年のラグビーを考えて花園でベスト8、ベスト4に進出し、まず母校(東海大仰星)を倒したい。そこに向かって走るだけです」とまっすぐ前を見つめた。

 青年監督の高校ラグビーへのチャレンジはまだ始まったばかり。来年は関西圏の選手にも5人来てもらう予定だという。「関西の子の力を借りながら、愛媛の子も大切にして頑張っていきたい」という渡辺監督は、新田高出身で東海大の同級生のFWコーチ・磯川哲平部長と二人三脚で、今後も愛媛のラグビーのレベルを上げつつ、花園での高みを目指す。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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