付属高、花園組、無名選手で強くなる 「慶応ラグビーは意欲がすべて」

斉藤健仁

王者・帝京大を追い詰める戦いも

早稲田大戦でトライを奪ったFL中村。全国的には無名の明和高出身で、副キャプテンを務めている 【斉藤健仁】

 今シーズンの大学ラグビーもいよいよ佳境を迎えようとしている。そんな中、春から他の大学に「今シーズンは強い」と警戒されてきたのが、タイガージャージでおなじみのルーツ校・慶応大だった。

 今秋、関東大学対抗戦が開幕すると、同じく調子の良かった明治大を28対26で撃破し、互いに4連勝で迎えた王者・帝京大にも28対31と惜敗ながらも互角に戦った。11月23日に迎えた早稲田大との伝統の一戦は、終始リードする展開だったが、相手のアタックの前に残り12分で2トライを奪われ、21対23と逆転負けを喫してしまった。

 慶応大の今シーズンの売りであるスクラムでもう少しプレッシャーを与えたかったところだが、秩父宮ラグビー場の張り替えたばかりの芝で、互いにスクラムが滑ったこともやや影響したことは否めない。キャプテンのLO佐藤大樹(4年)も「欲を言えば、もう少し低く組みたかった」と悔しそう表情を見せた。

 ただ12月3日に対抗戦の青山学院大戦を残しているが、すでに4位以上を確定させており、慶応大の大学選手権出場は決まっている。伝統的にトーナメント戦には強く、スクラムがチームに自信を与えていることもあり、上位に進出する可能性も十分にあるだろう。

「スポーツ推薦制度なし」という現状

主将としてチームをまとめるLO佐藤大樹 【斉藤健仁】

 そんな慶応大の強さの秘訣の一つは、中・高・大の連携にある。早稲田大戦では先発15人中9人が付属の慶応高の出身者だった。なかでもLO辻雄康、SO古田京、FB丹治辰碩、WTB宮本瑛介、HO安田裕貴は花園に出場したメンバーだ。全体を見ても130名あまりの部員の中で、慶応高が60人ほど、慶応志木高、慶応湘南藤沢高、慶応ニューヨーク学院も入れると約80人が系列校出身者だ。

 中学校の普通部、慶応高の連携をより強めたのは5年ほど前からだった。慶応大は他の強豪大と違って、スポーツ推薦という制度が存在しておらず、他の高校の生徒は一般入試で合格するか、総合政策学部・環境情報学部で有名なAO入試などの自己推薦と、各高校の指定校推薦で大学に入るしか道はない。もちろん推薦入試のため、ラグビー部を希望しても不合格になる高校生も多いという。

 和田康二前監督時代に「有望な選手がなかなか採れない」ということもあり、週1〜2回ほど中学と高校、高校と大学と一緒に練習する日を設けることで、練習の強度を上げて内部生の強化に力を入れるようになり、現在では、それが実を結んできたというわけだ。
 高校と大学と同じ戦術で戦っているわけではないが、SO古田は同じ高校出身者が多いことは「コミュニケーションは取りやすい」と、その有効性を認めている。

「選手のメンタル、意欲。慶応はそれがすべてです」

SH江嵜は強気のアタックでチームにリズムを与えている 【斉藤健仁】

 一方で同期が推したというキャプテンLO佐藤大樹(桐蔭学園高)、さらに副キャプテンFL中村京介(愛知県立明和高)、CTB堀越貴晴(茗渓学園高)と4年生のリーダー陣は外部出身者である。就任して3年目を迎える金沢篤HC(ヘッドコーチ)は、当然、色眼鏡で選手を見ているわけではなく、「僕にとって誰がどこの高校出身者かは関係ないですし、意識はしていません。(早慶戦も)たまたま選んだら慶応高出身者が多くなった」と説明してくれた。

 また、高校時代に全国大会に出場したことがないような、まったく無名の選手が努力次第で活躍できるのも慶応大の良さであり、らしさでもあろう。現在はA〜Fの6つのグレードがあり、3つに分けて練習を行っている。選手を上のチームに引き上げるとき、金沢HCが一番大事にしているのは「スキルもありますが、選手のメンタル、意欲です。慶応はそれがすべてです」と語気を強めた。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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