ダカツの人にリチャードを 「競馬巴投げ!第159回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

かつてイヴにトップガンで逃げ切った田原成貴は十字を切ったが

[写真1]キタサンブラック 【写真:乗峯栄一】

 街にイルミネーションが煌めき、アンディ・ウイリアムズ「ホワイトクリスマス」や山下達郎「クリスマスイヴ」が聞こえると、みんな「ああ、もうクリスマス、年の瀬なんだ」と思い始める。

 でもぼくは「ああ今年も仏教はキリスト教に負けてしまった」と感じる。

 年の瀬になれば「般若心経」や「御詠歌」が流れ、年末の風物詩・釈迦三尊イルミーネーションに数珠を擦りあわせ、「ああ今年もいよいよ、み仏の日が近い」と呟くという、どうしてそんな風にならないのか? クリスマスイヴを歌う山下達郎はなぜ「釈迦誕生日前夜」を歌わないのか? お台場JALホテルを予約した恋人たちは「あしたはお釈迦さまの誕生日だから二人で愛を誓おう」と言い、レインボーブリッジの明かりを見ながら線香を焚き、二人で座禅組む。

 子供たちはトナカイに乗ったサンタクロースではなく、象に乗った普賢菩薩にプレゼントを願う。「今年は普賢菩薩さん何持ってきてくれるかなあ? プレステ・ゲームがいいなあ。普賢菩薩さんは地底から来るんだよね? ママ、地底にもプレステ・ゲームある?」と心配する。

「メリークリスマス!」はあれだけ気軽に、ああ、かつてクリスマスイヴの日にマヤノトップガンで逃げ切った田原成貴は十字切りながら、この言葉で観客に祝福を送った。でも有馬記念勝った騎手が「南無阿弥陀仏」と念仏唱えるのは聞いたことがない。

 稲垣潤一は「クリスマスキャロルが聞こえる頃には、二人の恋に答えを出そう」と言うが、そんなことを言うからなかなか答えが出ない。「法華経・如来寿量品(にょらいじゅりょうぼん)が聞こえる頃には答えを出そう」ならきっと答えが出る。少なくとも宮澤賢治はそう言っている。

「クリスマスキャロル」って何や?

[写真2]サトノクロニクル 【写真:乗峯栄一】

 シャカニョライやカンノンボサツという馬は聞いたことがないが、クリスマスローズやクリスマスキャロルという馬ならいた。

 特にぼくは「クリスマスキャロル」という言葉がひっかかる。

 だいたい単語の意味自体がよく分からん。もとは「クリスマスを祝う賛美歌」の意味らしいが、最近では“ジングルベル”や“ホワイトクリスマス”や“クリスマスイヴ”だって「クリスマスキャロル」に入れていいらしい。

 じゃあ何か?「クリスマスキャロルの頃には」も「クリスマスキャロル」に入るのか? だとしたら「“クリスマスキャロルの頃には”の頃には」という曲が出来たら、それもクリスマスキャロルだろう。

「“クリスマスキャロルの頃にはの頃にはの頃には”という歌が出来ても、それもクリスマスキャロルということや。な? そうと違うんか?」

 コタツ入って鼻くそほじくっている嫁を揺り動かすと、ムックと起き上がってきて「もう、あんた、だいたい基本的にややこしいねん」と吐き捨てた。頭来た。目にもの見せてやる。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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