ダカツの人にリチャードを 「競馬巴投げ!第159回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

でも“ダカツ”って何や?

[写真3]シュヴァルグラン 【写真:乗峯栄一】

 一旦、自室に戻り「クリスマスキャロル」を徹底的に調べる。そう言えば最近も「クリスマスキャロル」という映画をTVで見た。あれは何だと調べてみると、イギリス、ディケンズが150年ぐらい前に書いた小説が原作で、映画はもう5回も6回もリメイクされているらしい。

 ぼくは映画「クリスマスキャロル」の詳細レポートを作って、勇躍コタツの部屋に戻る。

「“クリスマスキャロル”っていう映画は知ってるやろな」と大声を出すと、夫の怒りも知らずうたた寝していた嫁は「ンガァ」と首だけ起こす。

「映画クリスマスキャロルや、知ってるやろな?」と再び聞くと「えー? あの矢沢のエーちゃんがやってたやつ?」と言う。

「そりゃキャロルや」

「違うの?」

 これが建設的夫婦というものの会話か?

「リーゼントに革ジャンのエーちゃんが“今夜はクリスマスだぜー、ファンキー・モンキー・ベイビー、よろしく”とかって叫んで、うわっ、クリスマスキャロルや!とか言う映画かい!」とか身振りまで入れて長ツッコみしたが既に嫁は聞いてない。

 仕方なく一人で自分のレポートを読み上げる。

「冷酷無慈悲、蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われているロンドンの守銭奴のじいさんが、クリスマスイヴの晩に現れた精霊とその精霊のかなでるクリスマスキャロルによって人間愛に目覚める奇跡話や」

「ふーん」

「でもダカツって何や? “ダカツのごとく嫌われてる”っていうんやから、かなり嫌われてるんやろな、ダカツってのは」

 自分で自分の言葉に小首を傾げていると、「ダカツって、地下鉄の西中島南方(みなみがた)の向こうでしょ?」と嫁が言う。

「そりゃ中津やろ! 中津のごとく嫌われてるとかって、そんなのおかしいやろ!」

「そうか、違うか」

競馬人間のあなたは人間愛に目覚め、人生の素晴らしさを知ることになる

[写真4]スワーヴリチャード 【写真:乗峯栄一】

 24日の、クリスマスキャロルが聞こえてくる日に有馬記念が行われる。

 日頃の行いからダカツのごとく嫌われ、当然のごとく有馬も惨敗する競馬人間(そう、あなたのことだ。え、オレ?)がクリスマスイヴの精霊と賛美歌によって人間愛に目覚め、人生の大逆転勝利を収める。それがクリスマスキャロルだ。

 ダカツのごとく嫌われているあなた、あなたは確かに有馬記念には負けるかもしれない。しかしあなたは、その有馬後の24日の晩、人間愛に目覚め、人生の素晴らしさを知ることになる。おめでとう。有馬記念に負けるぐらいが何だ! メリークリスマス!

2/3ページ

著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント