明暗を分けた風間采配と田口の同点弾 J1昇格PO準決勝 名古屋vs.千葉

宇都宮徹壱

ユニークな顔ぶれとなった今年のプレーオフ

今年のプレーオフ準決勝は、名古屋対千葉の「オリジナル10対決」が初めて実現 【宇都宮徹壱】

 日本サッカーの各カテゴリーがクライマックスを迎える中、Jリーグでは一足早くレギュラーシーズンを終えたJ2。11月最後の週末からは、いよいよJ1昇格プレーオフの火ぶたが切って落とされる。試合の前に、まずは今季最終節での攻防を簡単に振り返っておきたい。第41節終了時点で、アビスパ福岡と名古屋グランパスの6位以内が確定。残る2枠を目指して、徳島ヴォルティス、東京ヴェルディ、松本山雅FC、そしてジェフユナイテッド千葉の4チームが最終節にしのぎを削ることとなった。

 11月19日16時、全国一斉にキックオフ。東京Vと徳島の直接対決は東京Vが2−1で競り勝ち、松本はホームで京都サンガF.C.に0−1で敗れた。最も劇的だったのが、フクアリでの千葉対横浜FC戦。1−1のまま終了かと思われた後半45+2分、近藤直也の劇的な逆転決勝ゴールが決まる。これで千葉は、クラブ記録となる破竹の7連勝。それまで上位にいた徳島と松本を追い抜いて、一時は絶望視されていたプレーオフ圏内の6位で滑り込みに成功した。

 この結果、プレーオフに進出する4チームは、名古屋(3位)、福岡(4位)、東京V(5位)、千葉(6位)に決まった。非常にユニークな顔ぶれであると言えよう。まず福岡を除く3チームは、いずれもJリーグ開幕に名を連ねた「オリジナル10」であること。そして名古屋を除く3チームは、J2暮らしがそれなりに長いこと(通算でのJ2在籍は、千葉が8シーズン、東京Vが11シーズン、福岡が13シーズン)。オリジナル10のチームは「トップリーグこそが自分たちのあるべき場所」と思っているだろうし、J2在籍が長いチームもまたJ1昇格への希求は計り知れないものがあるはずだ。

 しかし、しかしである。この4チームのうち、J1に昇格できるのはわずかに1チーム。残り3チームは来季も引き続きJ2暮らしとなる。当事者たちの極限状態での戦いと、勝者と敗者との明快なコントラストは、当事者ではないサッカーファンにとっても極上のエンターテインメントとなっているのは周知のとおり。今大会は準決勝と決勝、いずれも上位チームのホームで1試合のみ行われ、福岡対東京Vが13時から熊本で(レベルファイブスタジアムが改修工事のため代替開催)、名古屋対千葉が16時からパロマ瑞穂スタジアムで開催される。準決勝となる今回は、後者のカードを選択。新幹線のぞみに飛び乗って、名古屋を目指した。

風間監督の解は「3バックとシモビッチ」

試合前の千葉のゴール裏は、「勝つイメージしかない」という空気で充満していた 【宇都宮徹壱】

 キックオフ2時間前に会場に到着。バックスタンド側の入り口では千葉のサポーターが長蛇の列を作り、反対側の入り口では名古屋のサポーターが思い思いの旗を振りかざしながらコールを発していた。いつもはのんびりした雰囲気の中で行われるJ2だが、やはりプレーオフとなると空気は一変する。混雑するメディアルームでメンバー表に目を落とすと、千葉の佐藤勇人と名古屋の佐藤寿人がそろってスタメン出場であった。試合後、この兄弟もまた明暗を分けることになるのは必至。今回のカードが決まった時の、彼らのご両親の心中は察するに余りある。

 初のオリジナル10同士の対戦。プレッシャーを感じているのは、おそらく名古屋サポーターの方であろう。今季の対千葉戦は、アウェーで0−2、ホームで0−3。いずれも完敗と言ってよい内容だった。とりわけ、後半の約10分間で立て続けに3失点を喫したホームゲームは、わずか2週間前の話である。また、自動昇格の夢を絶たれた名古屋と、奇跡的なプレーオフ進出を果たした千葉、心理的なアドバンテージが後者にあるのは明らかだ。それ以外にも、風間八宏監督が川崎フロンターレ時代に一発勝負の弱さを露呈してきたこと、クラブにとってプレーオフの戦いが未知数なことなど、不安材料には事欠かない。

 一方の千葉は、かつてはプレーオフの常連であった。12年と14年は決勝で、そして13年は準決勝でいずれも涙をのんでいる。ここ2シーズンは、6位以下でシーズンを終えていたので、3年ぶりのプレーオフ進出にはチームもサポーターも極めて前向きだ。また過去2回のプレーオフ決勝は、いずれも下位チームに不覚を取っているが、今回は完全なチャレンジャー。あれからメンバーも大幅に変わり、プレーオフでのトラウマが払しょくされているのも好材料である。試合前の千葉のゴール裏は、まさに「勝つイメージしかない」という空気で充満しているように感じられた。

 この日の千葉は、直近2試合と同じメンバーで同じシステム。3−0で名古屋を破った時とまったく同じ顔ぶれである。対する名古屋は、いつもの4バックから3バックにシステムを変更し、このところ途中出場が多かったシモビッチがスタメン起用された。名古屋は第3節の千葉戦でも3バックで挑んでいたが、シモビッチは出場していない。どうやら「3バックとシモビッチ」というのが、今季2敗している千葉を攻略するための、風間監督の解であったようだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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