V字回復を遂げた名古屋グランパス 風間監督が目先の勝利よりも大事にした事

斎藤孝一

一時は8位にまで順位を落としたが……

勝ち点差「6」の2位福岡に勝利し、5連勝を収めた名古屋 【(C)J.LEAGUE】

 眠っていた鯱がようやく目を覚ました。

 名古屋グランパスの直近4試合は7−4(vs.愛媛FC)、5−2(vs.松本山雅FC)、4−3(vs.FC町田ゼルビア)、3−1(vs.アビスパ福岡)とまるで野球のようなスコア。実に19点をたたき出している。対戦相手の中にはJ2でもトップクラスの堅守を誇る松本、福岡が名を連ねており、この爆発的な得点力はもはや偶然の産物とは言い難い。このまま終盤まで連勝を伸ばしそうな勢いを感じさせる。

 8月20日に行われた第29節は2位の福岡と対戦した。勝ち点差は「6」の直接対決。2位以内の自動昇格を狙うためには負けられない大一番だった。

 名古屋は福岡に先制を許すものの、すぐにMFガブリエル・シャビエルのCKからFWシモビッチがシュートを決めて同点に追いつく。するとそれ以後は圧倒的なボールポゼッションで試合をコントロール、後半には美しい連係から今売り出し中の若手、青木亮太の逆転ゴールが決まり、さらにイム・スンギョムのJリーグ初ゴールで突き放した。「力の差を認めるしかない」と福岡・井原正巳監督を脱帽させるほどの完勝劇だった。

 名古屋の今季の順位変動を見てみると、5月までは何とか持ちこたえていたものの、6月から7月に行われた17節から22節までの6試合で1勝5敗と大きく負け越し、順位は8位にまで落ち込んだ時もあった。自慢の攻撃陣も7月の4試合でわずか3得点と奮わず、このままではJ1復帰どころか、昇格争いからも脱落しかねない危機的状況かと思われた。しかしそれが8月に入るとまさかのV字回復。この1カ月で自動昇格を射程圏内に捉えるまでに至った背景には何があったのだろうか。

1年で昇格か、それともクラブの根幹作りか?

一時は8位にまで順位を落とし、昇格争いからも脱落しかねない危機的状況かと思われた 【(C)J.LEAGUE】

 2010年にクラブのレジェンド、ドラガン・ストイコビッチ監督の下、悲願のリーグ優勝を果たした名古屋。しかしその後は下降線をたどり、昨季はクラブ史上初となるJ2降格という憂き目に遭った。そこでクラブはJ1の川崎フロンターレを常時優勝争いができるチームに引き上げた風間八宏監督を三顧の礼で迎えた。

 今季の目標は1年でのJ1復帰。財政面ではJ1を含めたリーグ全体でも上位、戦力的にもJ2では有数の人材を保有しているから当然だ。しかし新指揮官はそれよりも大事なものを優先してチーム作りを進めていく。

「選手個々の技術を高めること、1試合1試合成長していくこと。勝ち負けに一喜一憂しないし、しては大事なことを見失う」と、風間監督は目先の勝利よりも、選手の技術を伸ばしていくことが今後勝ち続けていくために必要なことであると常に言い続けた。

 もちろん1年での復帰と永続的に続く強さを身に付けることは、条件がそろいさえすれば同時に追うことができるものである。しかし「新しいチームになり、ほとんどの選手が今までやったことのないサッカーにトライしている」と監督が言うように、風間サッカーを体現することは、名古屋の選手たちにとって容易なことではなかった。

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著者プロフィール

1965年生まれ。愛知県出身。テレビのディレクター&カメラマンをしながらスポーツライターとして活動中。名古屋グランパスではJリーグ発足前のブラジル・コリンチャンスとのプレマッチを撮影したことと、アジアカップウイナーズカップ(今のACLの前身)を香港で応援したことが自慢。サッカーの他にも、取材で出会った岐阜のスポーツ選手の応援をしている。

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