ラグビー日本代表の新たな試み 「世界でも見ない形」で2年後のW杯へ

斉藤健仁

世界選抜に27対47で敗れる

前半33分にトライを奪った日本代表FB野口竜司 【斉藤健仁】

 厳しいレッスンとなったが、今後に向けて幾分かの光明もあった。

 10月28日、福岡・レベルファイブスタジアムでラグビー日本代表が世界選抜と対戦した。世界選抜は元日本代表FB五郎丸歩やトップリーグで活躍する強豪国の元代表選手など世界7カ国からなる混成チームだ。日本代表は11月にオーストラリア代表戦、トンガ代表戦、フランス代表戦を控え、勝利して勢いに乗りたいところだった。

 日本代表はPR具智元、LO姫野和樹らノンキャップ(日本代表として国際試合出場なし)が6人、No.8リーチ マイケルを筆頭にSH田中史朗、WTB山田章仁といった2015年ワールドカップ(W杯)組が5人と若手とベテランをミックスしたメンバー構成に。トップリーグの連戦からの疲れとコンディションを配慮し、HO堀江翔太、No.8アマナキ・レレィ・マフィ、WTB福岡堅樹、FB松島幸太朗らは出場しなかった。

 日本代表は前半こそ13対14と善戦したが、後半は故意のノックオンによりFB野口竜司(東海大4年)がシンビン(10分間の一時的退場)となっている間に2トライを与えると失速し、相手のFWの強さ、BKのうまさに翻弄され後半だけで5トライを喫し、27対47で敗れた。

“格上”に勝つために攻守にてこ入れ

攻撃ではリーチ(右端)ら強いランナーをグラウンドの外側に立たせたり、SHからパスをもらえる浅いところに配置 【斉藤健仁】

 そんな中でも9月から3回の強化合宿や直前合宿で練習してきたことは出せた部分もあった。昨年9月にジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が就任し、参謀にトニー・ブラウンコーチを置いて、2015年にハイランダーズをスーパーラグビー優勝に導いた2人がチームの強化にあたってきた。しかし、なかなか格上のチームには勝つことはできていないのが現状だった。そのため、攻守にわたり、てこ入れを図った。

「日本代表は得点力があります。攻撃も成長していくことが大前提だが、OKと考えられることができる部分はある」とジョセフHCはアタックには合格点を出すものの、今秋、マイナーチェンジとも言える新しい形を導入し、9月からのミニキャンプで動きを確認してきた。ジェイミー・ジャパンの基本的なアタック戦術は「ポッド」で、オーストラリア代表やクルセイダーズ、パナソニック、もちろんサンウルブズも同様にFW8人を4つのユニットにして「1−3−3−1」と広く配置する形を採用していた。

 新しい形は大きな考え方、そして両サイドで主にFLがBKとユニットを作るのは変わらないが、「(日本代表の)HOやNo.8にいいランナーがいる」とジョセフHCが説明するように、HOやNo.8を常に浅めに立たせてSHからのワンパスでスペースを狙う位置に立たせた。PRとLOといったタイトファイブは中盤でSHを起点としたシェイプ(陣形)を作る。「世界でも見ない形」(HO堀江)であり、言うなればFWを「1−1−4−1−1」と立たせる、変形の3ポッドとなろうか。

新システムは山田、福岡らにスペースを与える意図も

ボールを持って突進するPR稲垣。FWの運動量もポイントになる 【斉藤健仁】

 前半3分、右サイドでラックができるとタイトファイブの4人がSHから起点となるシェイプを作り、さらに、その前の浅い位置にリーチが立っていた。リーチはおとりとなって走り込んだが、SH田中はPR稲垣啓太にパス、稲垣がボールキャリアとなって前進しラックを形成。2人がフォローする中、LO姫野はラックに参加しないで、左サイドの浅めに立つ。結局、SO田村はBKに大きく展開したという具合だ。この試合ではFLの2人が両サイドに立ち、浅めに立ったのはNo.8リーチとLO姫野だったようだ。

 いずれにせよ、両サイドでFWとBK一体となったユニットを作り、中盤では相手ディフェンスを混乱させつつ、ゲインしてはやい球出しを狙うことには以前と変わらない。ただポッドを「4」から変形の「3」にしたことで、外にしっかりとスペースを作り、ボールを早く外に持っていきたい意図がうかがえる。日本代表のWTBは山田、福岡、松島、レメキ ロマノ ラヴァと強力な選手がそろっていることも影響しているのではないか。

世界選抜の五郎丸「フィジカルの差」

世界選抜で出場したFB五郎丸 【斉藤健仁】

 前半33分のトライも、相手のキックからボールを継続し、ややボールが乱れたが、No.8リーチ、LO姫野らがしっかり中盤でキープ。右サイドで4対3とアタックが有利な状況を作った中で、SO田村優が判断よく相手のFWとBKの間をラインブレイクし、内をフォローした唯一の大学生メンバーである野口がトライを挙げた。

 前半はストラクチャーを守って、しっかりとキックも交えて攻撃していたシーンも多かったが、後半になると相手のフィジカルに押されて接点で前に出られなくなったり、ターンオーバーされたりすると、なかなかいい形が作れなかった。世界選抜の五郎丸に「後半あれだけの差が出たのはフィジカルの差だと思います」と指摘されていた通りである。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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