ラグビー日本代表の新たな試み 「世界でも見ない形」で2年後のW杯へ

斉藤健仁

新DFコーチ「プレッシャーを与えることが第一の目標」

日本代表のディフェンスコーチに就任したジョン・プラムツリー氏 【斉藤健仁】

 次にディフェンスを見てみよう。7トライを挙げられたことを考えると、まだ時間はかかりそうだが、形は見えてきた。日本代表、そしてサンウルブズはベン・ヘリングコーチの下、「スペースと判断する時間を奪う」ため、前に出るディフェンスを採用していたが、ジョセフHCが「最大の課題」というように、特に強豪相手に失点の多さが目立っていた。

 そこで指揮官は、かつてウェリントンでいっしょに指導したことのあるジョン・プラムツリーコーチを招聘。プラムツリーコーチはかつてシャークス(南アフリカ)の指揮官を務め、アイルランド代表でも指導し、現在は2016年のスーパーラグビー王者のハリケーンズ(ニュージーランド)のディフェンスコーチを務める国際経験豊かな人物だ。

 ハリケーンズのディフェンスを見ると「T−システム」とも言われる、極端なまでに前に出る攻撃的なアグレッシブなディフェンスであり、やはりプラムツリーコーチも「自分の持っているスタイルはアグレッシブです。相手にプレッシャーを与えることが第一の目標で、ハリケーンズに似た形です。スペースをシャットダウンすることで、タックルすることを助けられる。相手に走ってこられてタックルするより、自分から向かってタックルする方がいい。それは物理です」と説明した。

プレッシャーを「かけ過ぎていた」場面も

相手にプレッシャーをかける新ディフェンス。これからどこまで進化できるか 【斉藤健仁】

 試合が始まると、日本代表選手たちはディフェンスがセットできたら、一列となって一気に前に上がるディフェンスを繰り返す。10番、15番は相手のキックに対応するために下がるが、他の選手はノミネート(自分が見る相手選手を確認)ができたら、SHの「ファイヤー」という声とともに前に上がる。ボールキャリアだけでなくパスの受け手、そしてあまり見られなかったが、ダブルラインで後ろに選手が立つ場合も、そこまでプレッシャーをかける。つまり“上がり切る”という言葉が的確だろうか。

 またこの日本代表はエリアに関係なく相手のゴール前でも積極的に上がり、連続攻撃されてディフェンスより相手のアタックの方の人数が多くても前に出ていたことには驚いた。随所に相手にプレッシャーをかけていた場面はあったが、前半はジョセフHCが「かけ過ぎていた」というように、相手のアンストラクチャー(崩れた局面)からのアタックでも前に出でてしまい、逆にトライを取られていたシーンはもったいなかった。このあたりは今後修正されていくだろう。

 またSOベリック・バーンズからLOのRG・スナイマンへのショートパスで2度ブレイクされたり、後半、世界選抜のWTB藤田慶和(試合後に日本代表に追加招集)がインサイドの見えない場所から入って来たようなプレーには弱いが、まだ導入して1週間も経っていないためしょうがないところか。

オーストラリア代表との一戦が試金石に

11月4日には強豪・オーストラリア代表に挑む 【斉藤健仁】

 試合後、ジョセフHCが「前に出てプレッシャーをかけることができた場面もあった」と言えば、リーチ主将は「ストラクチャー(スクラムなどのセットプレーからの場面)では良くできていた。ゲインを切られてアンストラクチャーになった時のディフェンスが足りない。それはタックルが悪いから。タックルがしっかりできていれば、ディフェンスシステムが機能する」と語気を強めた。いずれにせよ、上がって戻っての繰り返しのため、WTBレメキが「フィットネスがないと80分間持たない」と指摘するように、チーム全体としてフィットネスを高めること、もちろん個々のタックル成功率を上げることは必須だ。

 日本代表は戦術やシステム、ストラクチャーと言われている部分は2年後のW杯に向けて新たな試みを試しており、それがいい方向に行きそうだということは感じることはできた。ただ、それと同時に、改めて世界の強豪と対戦するにはフィジカル、フィットネスからは逃げられないということも明白となった。

 世界選抜の厳しいレッスンを受けて、ジェイミー・ジャパンは11月4日、横浜で、世界王者ニュージーランドに勝ったばかりで、調子を上げている2015年W杯準優勝の「ワラビーズ」ことオーストラリア代表に挑戦する。世界選抜戦を糧にどこまで成長を遂げることができるか。W杯を見据えたジェイミー・ジャパンの大きな試金石となる試合となろう。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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