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攻める宇野昌磨が持つ固い信念
「やれる事をやらないのは好きじゃない」

気持ちが崩れた、後半最初の4回転失敗

フリーのみが実施されるジャパンオープン。高難度の4回転5本を入れたプログラムに挑んだ宇野
フリーのみが実施されるジャパンオープン。高難度の4回転5本を入れたプログラムに挑んだ宇野【坂本清】

「本当に申し訳ないという気持ちで今もいっぱいで、すごく悔しいという気持ちもありますし、今後頑張りたいと思います」


 フィギュアスケートジャパンオープン終了後の記者会見で、宇野昌磨(トヨタ自動車)はそう振り返った。果敢に4回転5本に挑んだフリー「トゥーランドット」。冒頭の4回転ループは加点のつく出来栄えで成功させたものの、続く4回転サルコウは着氷が乱れてしまった。


「本来ならば後半の方が安定しなきゃいけないジャンプ構成なので、前半は挑戦、後半は絶対に跳ばなきゃいけないという気持ちだったんですけど、すごく緊張していたのもあって、いつもなら跳べるジャンプを失敗してしまった。後半最初の4回転フリップ、自分の中では着氷したと思った時に転んでしまったのが、一番気持ちの崩れにつながったかな」


 4回転フリップに続く4回転トウループは軸が斜めになり、セカンドジャンプをつけられない。その結果コンビネーションにしなくてはいけなくなった次の4回転トウループも着氷が乱れ、単発に終わった。日本チームの選手達と肩を組んで得点を待っていた宇野だったが、最終滑走者である宇野の得点を加えた最終結果が表示され、日本が2位に終わったことが分かると、タオルを口に当てたままうつむいた。


「無謀」と「攻める」の線引きを自らに課している宇野だが、4回転を5本入れるフリーの構成が決して「無謀」でないことは、今季初戦・ロンバルディア杯で自己ベストを更新する214.97点という高得点を出していることからも明らかだ。ただ、ジャパンオープン前日の公式練習でジャンプに苦しんでいた宇野は、練習後の囲み取材でロンバルディア杯について聞かれても「本当に試合でできたのはたまたまなので。ああいう演技ができるのは1週間に1回しかないので、まだまだですね」と冷静に分析していた。さらに「それだけジャンプを跳んでいて、体への不安は」と問われ、「体は、毎日通すっていうのが今はすごくしんどいですね」と率直に答えてもいる。


「これだけのジャンプを入れてプログラムを通すのが、しんどい。ショート、フリーを1日1、2回ずつ通すと、次の日は本当に体が動かなくて、それを3日ぐらい続けると、もう駄目でしたね」


 通常は練習で不調でも、試合本番ではきっちり立て直してくる宇野だが、さすがに4回転5本という構成は高い壁にもなっているようだ。


 ジャパンオープンの男子1位、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)は、4回転は2本に抑える構成で臨んだが、演技をまとめることで4回転を4本入れた2位のネイサン・チェン(米国)、5本入れた3位の宇野を上回った。4回転の本数を増やすのではなく、演技の完成度で勝ちにいく戦術も有効であることを示した結果といえる。

「今できるものは全部取り組んでいきたい」

演技を終えて、苦笑を浮かべる宇野(左から2番目)
演技を終えて、苦笑を浮かべる宇野(左から2番目)【坂本清】

 しかし、不調でもあえて挑んだ高難度の構成は、宇野の固い信念に基づくものだ。アイスショーに出演した8月下旬、宇野は「自分がやれることをやらないっていうのは、好きじゃない」と話している。


「(4回転)ルッツとかサルコウのジャンプをまったく入れずに、奇麗に跳んだ方がミスも少ないですし、プログラムとしての完成度も高くなると思うので、確率としてはそっちの方がいいとは思っているんですけど……僕はやっぱり今シーズンが最終目標じゃないので、もっともっと先のために、今できるものは全部取り組んでいきたい」


 そのアイスショーの前に、宇野はシカゴでジャンプをメーンに練習する2週間の合宿を行っている。アクセルを除く5種類の4回転、さらにプログラム後半でジャンプを跳ぶ練習もしたという。4回転の数が増える中「ミスしなかったもの勝ち」と言う宇野は、「今一番足りないものが体力」としながらも「体力をつけるというより、疲れているところで跳べるようにするというのが重要」と考えて進んできた。


「体力をつけるというと、最後まで楽に滑る、っていうイメージなんですけど……僕は、きつくても、その中で跳ぶ。ループもフリップも、万全の状態じゃなくても跳べるようにしたい。それが今後、必要になってくるかなと思っているので、ただジャンプだけの練習をするのではなくて、プログラムの中で跳べるようにしていかなくてはいけない」


 4回転5本という構成のリスクを十分に理解しながらも、来年2月の平昌五輪のもっと先まで見据え、それをこなせる力をつけることを目指しているのが、今の宇野なのだ。ジャパンオープン前日、不調だった公式練習後も、宇野は「毎日の練習が、楽しいとまではいかないですけど、まったく苦じゃなくやることができていますし、また練習してきたことが試合でできたときは、楽しいなって思います」と手応えを口にしている。


 8月のアイスショーの際、「試合でうまくいかなくて、悔しい思いして、またそれで頑張るというのもありかなと思っています」とも語っていた宇野。ジャパンオープン終了後の記者会見で、「練習でもここまで失敗することは少ない」と振り返り、この試合の経験を糧にすることを誓った。


「この悪かった試合を生かして、今後『あの試合があったからよかったね』と言えるような取り組みに励んでいきたいなと思っています」


 昨季の宇野は、一昨季の世界選手権フリーで失速し、流した涙を原動力にして躍進した。今季、宇野はこのジャパンオープンを飛躍のきっかけにするのかもしれない。

沢田聡子
1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(シンクロナイズドスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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