先の見えないカタルーニャとサッカー界 無観客試合の実施、表面化する対立関係

カタルーニャの分離独立を問う住民投票が実施

独立が実現すれば、バルセロナら複数のクラブがリーガからの脱退を余儀なくされる可能性もある 【Getty Images】

 カタルーニャ自治州の分離独立を問う住民投票は、スペイン警察の弾圧によって844人の負傷者が生じる、極めて不確実な状況下で実施された。フットボール界にとっても特別な1日となった10月1日は今後、長年にわたって人々の記憶に残るはずだ。

 本コラムで少し前に書いた通り、カタルーニャ自治州政府は近日中に一方的な独立宣言を行う可能性が高い。そうなればこの国のフットボール界には、われわれの想像を上回る影響が及びかねない。バルセロナ(エスパニョールやジローナも同様に)がスペインのコンペティションからの脱退を余儀なくされれば、もうわれわれはレアル・マドリーとの“エル・クラシコ(伝統の一戦)”が見られなくなるかもしれないのだ。

※リンク先は外部サイトの場合があります

 スペインから分離独立した場合、カタルーニャのクラブがスペインのコンペティションで戦うためには、外国のクラブとしてスペインフットボール協会(RFEF)への加盟登録を申請する必要がある。RFEFがそれを受け入れるかどうかといえば、ビジネス的観点からは理解できても、政治的側面を考慮すれば極めて難しいことだと言える。

バルセロナはラスパルマス戦を無観客試合に

カンプノウでのラスパルマスとの一戦は無観客の状態で行われた 【Getty Images】

 状況は極めて複雑化している。ライバルクラブのファンとの関係を考えれば、現時点ですでに、バルセロナがアウェー遠征に出向く際も、カタルーニャ外のチームがカンプノウを訪れる際も、何らかの問題がつきまとうことは避けられそうにない。それは10月1日の騒乱のさなか、異例の形で行われた第7節のラスパルマス戦(3−0)でも見て取れたことだ。

 この試合を無観客で行ったことに対するジョセップ・マリア・バルトメウ会長の説明は不可解なものだった。彼は観客のいないカンプノウの映像を世界中に発信するのが目的だったと強調しているが、ラ・リーガはバルセロナがセキュリティーの不備や観客がピッチになだれ込む危険性を訴えてきたと主張している。また、この試合でバルセロナの選手たちは入場時にカタルーニャ州旗である「サニェーラ」カラーの練習着を着用。一方のラスパルマスは、スペイン国旗が胸にプリントされたユニホームを着てプレーしている。

 同日にはジョセップ・グアルディオラやカルレス・プジョル、シャビ・エルナンデスらカタルーニャを代表するフットボール関係者が住民投票の必要性を公に主張するとともに、スペイン警察の武力行使を厳しく非難していた。将来的にはバルセロナの会長になりたいとたびたび語ってきたジェラール・ピケは、試合後のミックスゾーンで「人生で最も困難な1日だった」と涙ながらに語り、2018年のワールドカップ(W杯)ロシア大会後に予定していたスペイン代表からの引退を早めることまで示唆していた。

住民投票の是非を巡ってスペイン中が二分

ラスパルマス戦でバルセロナの選手たちはカタルーニャ州旗である「サニェーラ」カラーの練習着を着用 【Getty Images】

 無観客で行われたラスパルマス戦は、同日カタルーニャで起こった惨劇とともに、人々の記憶に深く刻み込まれることだろう。この一戦はまた、バルセロナのチーム内で試合を開催すべきと考えた選手たち、すべきではないと考えた選手たちとを二分する原因にもなった。

 その傍ら、エスパニョールをサンティアゴ・ベルナベウに迎えた同日のレアル・マドリー戦では、住民投票の是非をめぐってスペイン中が二分されている現状を象徴するかのように、カタルーニャへの抗議を示す多数のスペイン国旗がスタンドで揺れていた。その数日前には、住民投票を肯定したピケのツイートについて、レアル・マドリーのセルヒオ・ラモスが「“ラ・ロハ”(スペイン代表の愛称)のファンから受けるやじを避けるためには、ベストの行為ではなかった」とコメントし、代表でセンターバックのコンビを組む同僚との亀裂を深めていた。

 バルセロナの選手たちに向けて歌われる「ケ、ビーバ、エスパーニャ(スペイン万歳)!」の大合唱。カンプノウのスタンドに掲げられる「カタルーニャ・イズ・ノット・スペイン」の横断幕。スペイン継承戦争でバルセロナの町がフランス・スペイン連合軍に攻め落とされた1714年にちなみ、毎試合17分14秒に響き渡る「インダパンダンシア(独立)!」の叫び声。近年、各地のスタジアムで高まりつつあったスペインとカタルーニャの対立関係は、今回の騒動で一気に表面化することになった。この状況を修復するのは簡単なことではない。

1/2ページ

著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント