菊池雄星が大事な楽天戦で見せた成長 CS本拠地開催を引き寄せる大きな1勝

中島大輔

今季初の中11日登板での懸念

CSの本拠地開催がかかった楽天との直接対決で、苦しみながらも勝利を挙げた菊池 【写真は共同】

 クライマックスシリーズ(CS)ファーストステージの本拠地開催を争う東北楽天戦での先発を翌日に控えた10月2日、埼玉西武の菊池雄星は懸念材料を明かしていた。

「今年初めて中11日空くので、多少不安はあります。これまでは週1回ピークを作ってきました。でも、それを作らずに体が楽な状態で試合に入れるのは、プラスに働くこともあると思います」

 ゲーム差2で迎えた3日の直接対決第2戦で、菊池の予感は悪い方に的中した。1日のブルペン練習からストライクが思うように入らず、前日、そして3日の試合前練習でも修正できず、本番に入ってもボールがばらついたままだった。ストライクとボールがはっきりし、とりわけスライダーとカーブの制球に苦しんだ。

「修正能力が、ホンマに一番変わった部分じゃないですか」

 過去7年間コンビを組んできた炭谷銀仁朗が試合前にそう話していたように、今季の菊池はたとえ立ち上がりに苦しんでも、すぐに立て直してきた。だからこそシーズンを通じて安定した投球を続け、沢村賞も狙えるほどの成績を残してきた。

 しかし、この日はイニングを重ねても一向に良くなる兆しが見えない。2回裏に1点のリードをもらった直後、3回表には2点を奪われて逆転を許した。味方が得点した後のイニングを無失点に抑えるのは先発投手にとって勝つための条件の一つで、今季の菊池は例に漏れなかったが、楽天との大一番では嫌な形で試合序盤にリードを許した。

 思うようにボールを操れないばかりか、5回には左足ふくらはぎがつるアクシデントに見舞われる。なんとか修正しようと手を尽くすが、イニングが7回に差しかかっても苦しみ続けた。

 それでも、8回までに137球を投じ、被安打6で3失点(自責点1)。与四球こそ今季最多の5を記録したが、我慢強い投球でチームを勝利に導いた。レギュラーシーズン最後の登板で今季16勝目を飾り、キャリア初タイトルとなる最多勝と防御率の二冠を確実なものとしている。

130球を超えても151キロを記録

「今シーズンの中では下から数えたくらい良くなかったです」

 炭谷がそう振り返ったなか、なぜ、菊池は大事な試合で勝利することができたのか。その裏にあるのは、6回と8回のピンチで見せた“引き出し”と“気合”だった。

「1回から7回までは(修正しようと)考えていましたけど、考えてもどうしようもない日もあります。考えて打たれて後悔するより、とにかくミットを目がけて投げたほうがいいときもあるので」

 菊池がそう回想したのが、8回に迎えた無死満塁のピンチだ。7回に味方のエラーも絡んで2点差にされると、8回は先頭打者から2人続けて四球を出し、銀次の投前バントをフィルダーズチョイスとしてしまう。この時点で球数は126球。明らかに疲労が見える中、自ら3つのミスを犯して満塁のピンチを招いた。

 そうして迎えた代打・中川大志、代打・足立祐一、そして嶋基宏に対し、バッテリーはいずれも力勝負を選択する。

「(ファンの)歓声も聞こえていましたし、フォアボールを出しても1点差というくらいのつもりで投げたのがプラスに行きました」

 菊池がそう振り返った一方、炭谷は配球の根拠を説明する。

「力勝ちできると思っていたので。(今日)ギアを上げたときには、しっかり内角に投げ切れていたので」 

 中川は初球のカーブの後にストレートを2球続けて、3球目は外角への逆球になりながらも見逃し三振。足立には内角にストレートを3球投げて1ボール2ストライクとした後、内角低めのスライダーでバットに空を切らせた。ピンチに立たされながら、まるで相手打者を見下ろして投げているような打ち取り方だった。続く嶋には初球のスライダーが内角低めに外れると、ストレートを3球続けてセンターフライ。無死満塁を無失点で切り抜けた菊池は、握りこぶしでグラブをたたいてマウンドを後にした。

 130球を越えた後、球速151キロを記録するストレートこそ菊池最大の武器だ。その球に気合が乗り、打者を力でねじ伏せた。

ピンチになればなるほど真骨頂を発揮

 一方、炭谷が力勝負を選択したのは、3対2で迎えた6回のピンチが伏線にある。

 1死から島内宏明にライト前安打、続く銀次に四球で一、二塁。ここで迎えたのがアマダーだ。甘く入れば、一発の危険性がある。それでもストレートをコースに投げ切れば、まず打たれるはずがない。1、2打席目を踏まえて、そうした確信があった。菊池は炭谷が内角に構えたミットに153キロの豪球を投げ込み、バットを出させないまま三振に仕留めた。

「全体的にバラついていた中、ああいう場面でしっかり投げ切るのがギアを上げるということだと思います」

 そう振り返った炭谷は、続く岡島豪郎には一転、スライダーを続けていく。

「前の打席で真っすぐで見逃し三振にとっているので。雄星がスライダーをきっちり低めに投げてくれるだろうと思いました」

 前打席の残像を生かしながら、スライダーを外角低めのボールゾーンに3球続けて空振り三振。キャッチャーの的確な状況判断に対し、ピッチャーは集中力を高めた投球で応えた。

 この日の菊池は本調子から程遠い中、ピンチになればなるほど真骨頂を発揮した。ストレートを内角に投げ切る制球力、変化球で空振りを取る技術、そして腹をくくって勝負に挑む精神力は、今季の好成績を裏付ける要素だ。状態が悪いときでもそうした引き出しで抑えることができたのは、菊池が球界屈指の投手に成長した証だった。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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