菊池雄星が大事な楽天戦で見せた成長 CS本拠地開催を引き寄せる大きな1勝

中島大輔

用意されたエースから確実なエースへ

リーグトップタイの16勝を挙げた菊池。自身初の最多勝を確実なものにした 【写真は共同】

「(春季)キャンプのときは岸(孝之/楽天)さんが抜けて、言い方は悪いですけど、用意されたエースだったかもしれない。でも、今は確実にエースじゃないですか」

 試合前にそう話していた炭谷は、メットライフドームの駐車場から家路につく直前、菊池の成長をこう振り返っている。

「雄星が去年の秋からしっかり自主トレで取り組んできて、フォームを固めるとか、自分の体の使い方をしっかり固定できたことが、いろいろな引き出しにつながっています。昨年まではボールにばらつきが多くて、“今日はダメだな”と思ったらズルズル行く。でも、今年1年で相手バッターを打ち取る方法が経験値としてあるから、今日みたいに苦しくてもカバーできたと思います」

 昨秋に就任した辻発彦監督から「1年間、(先発ローテーションは)お前中心で行く」と言われた今季、勝てる投手に必要な条件を加えながら順調に勝ち星を増やす一方、夏場には二段モーションを指摘された。それでもすぐに新たなフォームを固め、リーグ最多となる16の勝ち星を積み上げている。

勝利、防御率、奪三振でリーグトップ

 CSファーストステージの本拠地開催に向けて大きな1勝をチームに引き寄せた菊池は、安堵の表情を見せた。

「シーズンが始まる前は正直、自分のなかで自信もなかったので。エースと言われるのはあまりうれしいことではなかったんですけど、なんとか数字がついてきて良かったです」

 10月3日時点で16勝、防御率1.97、217奪三振と3部門でリーグトップ。誰もが称賛する結果を残した今、菊池自身はエースという立場をどう捉えているのか。

「これを3、4、5年と続けていくことが大事だと思います。チームを優勝させることができるのが、たぶん本当の(エース)ピッチャーだと思うので、CSでまた頑張りたいです」

 振り返れば半年前、札幌ドームでの開幕戦を勝利した直後、菊池は今季をこう位置付けていた。

「1年間安定して、イニングを稼いで試合を作るのが今年の目標なので、1年間やり通したいですね。北海道で4年近く勝っていなかったので、(自身の連敗)を今日止められたのは大きい。次は(福岡)ソフトバンク、1回も勝っていないので。1個ずつ克服していく年にしたいです」

 今季4戦4敗、プロ入りから1度も勝っていないソフトバンク戦こそ、最後のハードルだ。8月24日の3回7失点KOを最後に相性の悪い相手を避けるようなローテーションで回ってきたが、今の菊池なら乗り越えることができるかもしれない。そう期待したくなるだけの投球を、ここまで披露してきた。

 CSファーストステージを突破し、鬼門・ヤフオクドームでソフトバンクに勝利できたとき、菊池は正真正銘、球界を代表するピッチャーの称号を手にする。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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