ビッグマッチも「平常心」だった小林祐希 ヘーレンフェーンは一躍トップ5候補に

中田徹

優勝候補の一角を攻守で凌駕

優勝候補の一角PSVを攻守に凌駕(りょうが)し、2−0で快勝したヘーレンフェーン 【Getty Images】

 ヘーレンフェーンは9月10日、優勝候補の一角PSVを攻守で凌駕(りょうが)し、2−0で快勝した。

 ユニークな集団だ。日本人を見ると「俺が一番!」と日本語で話し掛けてくるコソボ代表、アルベル・ゼネリが4分、強烈なミドルシュートで先制ゴールを決めると、その90秒後にはワールドカップ(W杯)本大会出場を決めたイラン代表のストライカー、レザ・グーチャンネジャドが2点目をマークした。このゴールをアシストしたのは現在、オランダで売り出し中の右サイドバック、デンゼル・ダンフリース。縦へのラッシュが魅力的な21歳は、まだ4節を終えたばかりというのにすでに5アシストを記録している。

 夏の移籍市場で獲得したばかりのGKマーティン・ハンセンは、かつてADOデン・ハーグ時代に、PSV相手にヒールキックでゴールを決めたGKとして世界を驚かせたことがある。今度はヘーレンフェーンのデビューマッチで、PSV相手にファインセーブを見せてクリーンシートを達成した。

 17歳のセンターバック、キク・ピエリーも危なげなかった。試合後のインタビューで「明日からまた学校だよ。早速、英語、フランス語、歴史の授業があるんだ」と語る姿はまだあどけない。中盤で軸としてチームを操ったのが33歳の大ベテラン、スタイン・スハールスだった。昨季後半戦は負傷と不振に苦しんだが、PSV戦では『フットボール・インターナショナル』誌が週間ベストプレーヤーに選ぶほどのゲームメークを見せた。昨季の前半戦で素晴らしいコンビを組んだ小林祐希との息も再び合ってきた。

あまりの好ゲームに評価もうなぎ上り

 今年1月から半シーズン、「ノルウェーの神童」マルティン・ウーデゴールは過熱気味の期待に応えられなかったが、今季はプレシーズンから著しい成長を示している。PSV戦では「偽の右ウイング」としてダンフリースとともに右サイドを圧倒し、パンチの効いたシュートも見せた。元オランダ代表のロナルド・デ・ブール氏は「才能は確か。あとはゴール、アシストといった結果だけ」と、そのポテンシャルの高さを評している。

 小林はスハールスとともにユルゲン・ストレッペル監督のゲームプランをしっかり実行した。PSV戦のヘーレンフェーンは、ダンフリース&ウーデゴールコンビによる右サイドのストロングポイントを生かし、相手の弱点でもある左サイドを徹底して突いた。

 グーチャンネジャドのゴールのように、右サイドを崩し切っても良いし、左サイドに生まれたオープンスペースに大きくパスを振っても良かった。そのさじ加減は小林とスハールス次第。小林のサイドチェンジは決まれば大きな拍手。ミスパスになっても、目の肥えたファンは「お、よくスペースを見つけたな。わずかにミスにはなったけれど、技術の質は高かった」という拍手を送ったのだ。

 試合終盤にはPSVのペナルティーエリア内でモーテン・トルスビーがリフティングでギャラリープレー(点差がついた時にファンに魅せるショー的なプレーのこと)を披露するおまけ付き。今季のオランダリーグは「アヤックス、フェイエノールト、PSVの3強にユトレヒト、AZ、フィテッセが続く」と目されているが、PSV戦後は「ヘーレンフェーンも“トップ5”を狙えそうだ」という声が起こっていた。

平常心がもたらした快勝

「オランダリーグではいつも平常心でプレーできる」と話す小林は、PSV戦でも中盤を落ち着つかせていた 【Getty Images】

 オーストラリア戦、サウジアラビア戦では出場機会こそなかったが、アジアの長旅を終えてオランダに戻ってきた日本代表・小林は「2−0になった時点で後半のことを考えていた」という。オランダリーグで小林が感じているのは「上3つのチーム(アヤックス、フェイエノールト、PSV)は前半ダメでも、後半、試合の流れを変えてくる力がある」というもの。そこで「相手がこういうふうにしてきたらこう。ああしてきたらこう」という対応策をイメージしながら試合を進めていたのだ。ところが、メキシコ代表のイルビング・ロザノ・バエナがダンフリースを削ってしまって37分にレッドカード。試合の潮目がPSVに向くことは90分間を通じてなかった。

「PSVが10人になって、何にもできなくなってしまった。ヘーレンフェーンもみんなが相手のハイボールにしっかり対応していたしね。GK(ハンセン)がめちゃくちゃいいから、俺はすごいビックリしました。今日はいいゲームだったと思います」(小林)

 メンタルトレーニングを積んでいる小林は「オランダリーグではいつも平常心でプレーできる」と言うが、チームメートもまた、PSV戦というビッグゲームを平常心を保ってプレーしていた。

「今日は俺とスタイン(スハールス)で、中盤がだいぶ落ち着けたからね。これで周りが落ち着かなかったら、それはだいぶヤバイでしょ? 中盤は中盤の役割をしっかりやったし、前はしっかり決めたし。早い段階で点を取れて、相手が前掛かりになってくれれば(チームはラクになる)」(小林)

 その結果、小林の言葉を借りれば、PSV戦が紅白戦になった。

「PSVの出来が悪かったのではなくて、うちが良かった。何回も言わせてもらうけれど、うちが良かった。俺は相手がPSVだとは全然気にしなかったし、誰も気にしていなかったと思う。普通に、紅白戦と一緒。(紅白戦と)同じようなプレーができないと、それ以上もできないし、それ以下のことをすることもない。自分ができることをみんながやった」

 レギュラー組がヘーレンフェーン。控え組がPSV――。そんな“紅白戦”だった。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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