小林祐希がオランダで過ごす濃密な時間
“名波スタイル”を貫いた先に見えるもの

スタンドに響き渡った小林の大きな声

小林が心掛けているのは、あらかじめチームメートに指示を出しておくこと。背景には名波監督の教えがある
小林が心掛けているのは、あらかじめチームメートに指示を出しておくこと。背景には名波監督の教えがある【Getty Images】

 オランダリーグが開幕する夏のバカンスシーズンは心持ち、観客の入りが少ないものだ。ヘーレンフェーンにとってホーム開幕戦となった第2節のヘラクレス戦は1万8300人という、ちょっと寂しい観客数だった。


 前半、ファンが試合に見入ってシーンとなっていた時に、小林祐希が「スタイン! スタイン!!」と大声で指示を出す声がスタジアムを突き刺すように響き渡った。


「俺は毎試合、(大声で指示を)出している。たまたまスタンドが静まり返っている時に声を出しちゃっただけで、恥ずかしいと思った」

 

 小林が心掛けているのは、あらかじめチームメートに指示を出しておくこと。「簡単に言うと“名波スタイル”ですよね」と小林は話す。ジュビロ磐田で指揮を執る名波浩監督から小林への教えはこうだった。


「海外でやりたいんだったら、味方に対して絶対に文句を言うな。チームメートに『こういうふうにしたいから、こういう風にしてくれよ』って要求するのは良いよ。でも『何でパスを出さないんだよ。今、出せよ!』みたいな文句、そんなのはいらない。だったら、お前がボールを受けたい場所に動けよということ。終わったプレーに対して、ごちゃごちゃ言うのは一流じゃない」


 応援が盛り上がり始めると、小林の声はもうスタンドの上段まで届いてこない。それでも「コースを切れ」「もうちょっと上がれ」というピッチ上での身振り手振りは伝わってきた。

サッカーと将棋に共通する「何手か先の手を読む」こと

サッカーと将棋に共通するのは「何手か先の手を読む」ことだ
サッカーと将棋に共通するのは「何手か先の手を読む」ことだ【Getty Images】

「今、試合中に周りがめっちゃ見えてるんですよね。ジュビロがJ1に上がって最初の半年、つまりオランダに来る前の、自分のところへボールがこぼれてくるという感覚があるんですよ」

 

 それは自分が味方を気持ちよく使えている時に起こる感覚だ。「『俺が、俺が』となっている時には、絶対に自分のところにボールがこぼれてこないんですよ」


 もちろん、相手陣内で怖さを見せることもMFとして必要だ。


「まずはしっかり相手を走らせる、味方を動かすというベースとなるところをやりつつ、スペースが空いたらズドンというのをイメージしています。だけど、それは感覚的なものであまり考えてはいないです」

 

“感覚”という言葉を用いた小林だが、プレーの後に「これでよかったのか」と自問自答をしているようにも見える。


「うん。俺のパスを受けた選手がボールを取られたら、俺のミスだと思っているから。オランダだと違いますよね。パスが通って、それがどんなパスでも受け手のミスにされます。だから、オランダではみんな『速いボールを蹴れ』と言う。


 だけど、受け手がコントロールできなかったら、俺は意味がないと思っている。自分の2個先、3個先でも詰まらないよう、受け手に『あっちに出せよ』というイメージでパスを出せば、スムーズに次のパスがつながっていくはずなんです」


 何手か先の手を読む、将棋のような話になってきた。


「将棋もそうですが、自分の欲だけで(駒もパスも)動かしていたら、絶対にうまくいきません。相手をまず先に考えないといけない。“相手”とは味方もそうですし、(対戦)相手もそう。『俺がこうしたい』という気持ちは全員が持っている。でも、チームメートにもしたいことがあって、それが1つのチームに11個ある」

 

 1人1個ではすまないかもしれない。


「そう。1人3つ、4つ、やりたいことがあったら、1チームに30個、40個になってしまう。その中で合わせて、1つにしていくんだから、サッカーって本当に大変なスポーツだよ」

中田徹
中田徹

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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