変わり始めたトヨタ自動車ラグビー部 世界的名将が「人生をかけて」指導

斉藤健仁

W杯優勝監督のジェイク・ホワイト氏を招聘

キヤノン戦でトライを奪ったHO彦坂圭克 【斉藤健仁】

 世界的名将を招聘し“世界のトヨタ”が本気になった。
 
 全国社会人大会優勝5回の名門で、15年目を迎えるトップリーグでも優勝こそないが2010年度まで「トップ4」の常連だったトヨタ自動車。近年はトップ4にも入れず、昨シーズンも8位とやや低迷した。

 だが、19年に地元の豊田市でもラグビーワールドカップ(W杯)が開かれ、20年に東京五輪が開催される中、今シーズンからトヨタ自動車がついにラグビー部の強化に本腰を入れ始めた。外国人コーチを招くことはあっても、内部の出身者が監督を務めるのが通例だったが、今シーズン、強化の最初の一手として、世界的名将のジェイク・ホワイト氏(53歳)を監督として招聘した。

「日本でコーチすることに興味がありましたし、豊田(章男)社長から監督をやってくれないかと誘いがあった。コーチは選手にもっといい選手になれと言いますが、コーチ自身も伸びないといけない。だから環境を変えれば、自分も伸びることができる。日本でW杯もありますし、日本人にコーチすることはいい刺激や経験になる。そういうことすべてが糧となり、大きな判断になった」(ホワイト監督)

“盟友”エディーからは「日本人選手はスポンジのようだ」

指導者として世界で活躍してきたジェイク・ホワイト氏 【斉藤健仁】

 ホワイト監督と言えば、07年に母国の南アフリカ代表をW杯優勝に導いた指導者で、スーパーラグビーやフランスでも指揮を執ってきた世界的名将として名高い。04年と07年にはIRB(現ワールドラグビー)の年間最優秀コーチ賞を受賞、11年にはワールドラグビーの殿堂入り。トップリーグ、いや日本ラグビーの長い歴史の中でも、W杯優勝監督が一チームの指揮官になるのは初めてのことだった。

 またホワイト監督は、07年W杯で南アフリカ代表のテクニカルアドバイザーを務めた元日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏と、もともと高校の教師からプロコーチになったという共通点もあり、盟友。そのつながりでホワイト監督も日本でジョーンズ氏とコーチングセミナーを行ったり、トップリーグチームのスポットコーチを務めたこともあった。やはりホワイト監督はエディーからアドバイスを受けた上での来日であり、「日本人選手はスポンジのように学びたいという姿勢が高い」と聞いていた。

 5月、フランス・モンペリエでの指揮が終わるとすぐに1週間ほど指揮官は来日。「過去の栄光は捨てろ」と言わんばかりに、優勝トロフィーを選手の目の見えないところにしまうように指示した。さらにホワイト監督は「トップリーグにいるということはプロと同じ」と、例年よりも仕事の時間を減らし、ラグビーにかける時間を多くした。そして、「ONE TAEM」という言葉とともに、プロ的な環境で意識を徹底するために、スローガンを「NO EXCUSE(言い訳するな)」と定めた。

ルーキー姫野をキャプテンに「日本代表になれる選手」

帝京大を卒業したばかりのルーキー、姫野和樹(左)をキャプテンに指名 【斉藤健仁】

 また日本にいる間に選手全員と個人面談を行い、チームキャプテンとして地元・愛知出身で帝京大卒のルーキーのFL姫野和樹を指名。クラブキャプテンとして元日本代表のベテランLO北川俊澄をフォロー役に置いたが、新人がキャプテンを務めることは異例だった。

 ホワイト監督は「姫野は帝京大で4年間負けを知らない人間ですし、帝京大出身の選手がたくさんいますが勝ち方を知っている。(新加入の元南アフリカ代表)ジュアン・スミスもW杯優勝を経験した。勝ち方を知っている選手と他の選手をジョイントして、マインドを変える必要があった。また姫野は十分に日本代表になれる選手ですし、W杯では必ずプレーすると思っています」とその理由を語った。

 姫野もその意図を実感している。「ルーキーでキャプテンをするということは、チャレンジするトヨタを体現するという意味と、僕自身もキャプテンとして成長してほしいと期待をこめられていると思います。ホワイト監督はラグビーに対して熱い方で、キャプテンをやってくれと言われてワクワクしました。フィジカルを前面に出してやっていきたい!」(姫野)

「細かいところまで見てくれるのでやりがいがある」

ホワイト監督の指導により、チームが変わり始めている 【斉藤健仁】

 見た目からは怖い印象もあるが、実際はそうではないという。選手に新監督の印象を聞くと「しっかりとコミュニケーションを取ってくれる」、「頑張りや細かいところまで見てくれるのでやりがいがあるし、いつもポジティブです」、「相手の分析もしっかりしますし、練習前に毎回20〜30分くらいやるミーティングがうまくて、毎回やる気が出ます」、「練習でアピールすれば試合に出られますし、ラグビーをしていて楽しい!」との答えが返ってきた。

 コーチングの能力以外にも、選手のモチベーションを上げるのがうまいというのは監督の資質の一つであり、ホワイト監督は、ジョーンズ氏よろしく、ラグビーに熱く、もともと高校の教師という部分が大きいのかもしれない。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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