変わり始めたトヨタ自動車ラグビー部 世界的名将が「人生をかけて」指導

斉藤健仁

「日本代表にたくさんの選手を輩出する」

W杯優勝も経験しているFLジュアン・スミス(左) 【斉藤健仁】

 もちろん、監督は自らの人脈を使って、世界的FLのスミス以外にも身長203cmのLOジェイソン・ジェンキンス、元代表FBジオ・アプロンら南アフリカ出身選手を呼び寄せ、他にも7人制日本代表で長らく活躍したWTBヘンリー ジェイミーら計12名が新加入(NECから移籍した日本代表SH茂野海人は、規定により今シーズンは試合に出場できない)。

 コーチ陣も充実させた。99年のW杯を制したオーストラリア代表のディフェンスコーチだったジョン・マグルトン、帝京大のコーチだったクレイグ・スチュワート、豊田自動織機のコーチだったタイ・マクアイザックらを招聘、元日本代表CTBでOBの難波英樹氏がアシスタントコーチを務める。「日本語ができるコーチが3人、私も含めて外国語で指導するコーチが3人。いいコーチングスタッフで、完璧なバランスです。試合で細かいことを落とし込めます」(ホワイト監督)

 ラグビー面ではホワイト監督は「自分を通じて、大きくて強かった昔のトヨタを取り戻す」と語気を強める。「日本のラグビーはアタッキングラグビーが中心ですが、FWでフィジカルを発揮して、ディフェンスでタフな選手を選び、強さを出していきたい。そして日本代表にたくさんの選手を輩出して存在感を出していきたい」。
 もともと南アフリカ出身のホワイト監督はディフェンス指導に定評のある指導者で、セットプレー、ディフェンスからチームを作っていくことは容易に想像できた。「練習でできないことが試合で出せるわけはない」と監督が言うように、練習強度は上がっており、一回一回の練習の意味合いも上がっているという。

開幕戦でヤマハに惜敗も、その後は2連勝

豪雨の中で行われたヤマハ戦では激しいディフェンスが光った 【斉藤健仁】

 ホワイト監督は7月に来日し、就任1カ月半ほどしか経っていない中で、8月18日、トップリーグが開幕した。トヨタ自動車はトヨタスタジアムで、昨シーズン2位、FB五郎丸歩が復帰したヤマハ発動機と対戦。ホームでの試合は、今シーズンからトヨタ自動車のコーポレートカラーの赤で戦うことも決めた。2万7871人とトップリーグ記録となった観客は、おそらく8割ほどがトヨタファンで埋め尽くされていた中で、ジェイク・トヨタは素晴らしい戦いぶりを見せる。

 嵐の中で迎えた前半はディフェンスの時間が長かったが、相手にトライを許さず5対0とリードで折り返した。後半は、スクラムで劣勢になったことが響いて、11対14で敗れたものの、十分にジェイク効果が見て取れる試合だった。第2節はキャプテンのFL姫野が2トライと気を吐き、近鉄をノートライに抑えて22対9で勝利。

 さらに9月2日の第3節のキヤノン戦では、後半14分まで12対12だったが、後半20分以降にトヨタ自動車が3トライを挙げて34対12で快勝。ホワイト監督は「立ち上がりは悪かったが、昨シーズンであれば負けていたと思う。そういった状況でも身体を張ってくれてアタックでもディフェンスでも一体感を持つことができ、(3トライ以上差の)ボーナスポイントを取ることができた」と自信を深めた。

 またこの試合は、前節から7人がメンバー変更。昨シーズンは、ほぼレギュラー15人と控え7〜8人がほぼ決まっていたようだが、新しい指揮官となった影響で、練習や試合でアピールした選手が公式戦に出られるため、競争が激しくなっている。この試合で、今シーズン初先発だったSH滑川剛人は「軽いプレーをしたら怒られるし、外国人でも代えられる。今年は誰が先発かわからないし、それがチームの底上げになっている」と実感している。

難波コーチ「これからジェイク色が出てくるはず」

新加入のSOライオネル・クロニエの活躍も目立っている 【斉藤健仁】

 3節までの試合を見てもディフェンス、ターンオーバーからのアタック、セットプレーは昨シーズンよりも鍛え上げられていることがうかがえ、「トヨタ・ウェイ」という言葉も聞こえきた。ただ攻撃面はまだまだ及第点を与えることはできないようで、特に自分たちがボールを保持した状態から、なかなかトライには結びつけられていない。ホワイト監督は「本来はボールを持っているので相手にプレッシャーをかけないといけない。相手のトライラインに近づいてもボールが出せないことがあった。いいことはボーナスポイントを取って勝利してもまだまだ課題があること」と先を見据えた。

 近くでホワイト監督の指導を見ている難波コーチは「(ジェイクは)いろんなところを見ているし、どんと構えていて動じない。言葉が重いし、うまい。まだ来日して2カ月なので、前から指導していたコーチを立てていた。これからジェイク色が出てくるはずです」と言うように、今後、試合を見た上でさらなる改革を進めていくはずだ。

 トヨタ自動車は、混戦が予想されるレッドカンファレンスに所属し、現在2勝1敗で3位につけている。優勝決定トーナメントに進出するには、自分たちより上位にいるサントリーか神戸製鋼のいずれかを上回らなければならない。9月9日には強みが似ている東芝と、23日には今シーズン好調のパナソニックと、そして10月15日には昨シーズンの王者サントリーと対戦する。ジェイク・トヨタの真価かが問われる戦いが続く。

「人生をかけて」指導するというホワイト監督は「サントリーは一昨年9位から昨年優勝した。サントリーがやったみたいに(我々も)強いチームになることができるはず」と狙うは、就任1年目からのトップリーグ初制覇である。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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