日本代表メンバーが発表される２週間前から、小林祐希はずっと重ね着をして日本とサウジアラビアの暑さ対策をしていた。もしも、代表に選ばれなくても無駄なことはひとつもない。１２時半キックオフのＰＳＶ戦（９月１０日）に役立つじゃないかと思って――。８月２４日、吉報は来た。小林は２７名の代表リストに入ったのだ。

　これまで小林の代表出場歴は２０１６年の親善試合２試合のみ。足して３８分間の出場時間にすぎないが、それでも昨年１１月のオマーン戦でのパフォーマンスとゴールは今後に期待を抱かせるものだった。しかし、その後の小林は“２４番目以降のバックアッパー”にとどまっていた。

　今年３月のインターナショナルマッチでは再度、小林にチャンスが巡ってきそうだった。負傷者が出たことによる追加招集のメンバーとして、小林が選ばれたのだ。だが、小林は３月１９日のフェイエノールト戦で、大腿（だいたい）部に相手の膝打ち、いわゆる“ももかん”を食らっており、ひどい打撲を負ってしまった。

「こんなの２日で治りますよ」と言っていた小林だったが、実際にはとてもプレーできる状況ではなかった。「俺は代表に行きたい」。そう主張した小林に、ヘーレンフェーンのユルゲン・ストレッペル監督は、こう言って思いとどまらせた。

「お前が代表に行くのはいいよ。だけど、けがを負ったまま代表に行って、それで動けなかったら、その次もお前は代表に呼ばれるのか？　けがをしたままお前の評価が落ちるのはもったいない。今、お前はヘーレンフェーンで良いプレーをしているから、俺には将来、お前が日本代表のスタメンで試合に出ていることがもう見えている。だから、焦って今、行くのではなくて、いったん落ち着いて、今回は我慢しろ。１００％の時に代表へ行け」

　今、小林は「あの時、監督の言ったことを尊重してよかったと思います。以前だったら『俺は絶対に代表に行く。行かせないんだったら練習やんねえ』ぐらいの感じだったかもしれないけれど、そこは冷静になれました。あれから、けっこう経ちましたね」と正しい選択を導いてくれた指揮官の言葉に感謝する。

「今回はバックアップではなく、最初の２７人の中に自分の名前が挙がった。俺はそれがうれしいです。自分の力でチーム内での序列を変えていきたい。俺が日本代表で出たのは２試合とも練習試合。ワールドカップ（Ｗ杯）の予選に出たことがないから、どれだけのプレッシャーがかかるのか、どのぐらいの重圧があるのか感じてみたいんですよ。

　俺はプロに入ってからタイトルというものを獲ったことがないんです。ジュビロ（磐田）がＪ２で（アビスパ）福岡と競って２位でＪ１に上がった時ぐらいしか、そういう切羽詰まったゲームはしたことがない。今度のＷ杯出場権が懸かった試合は『勝てば天国、負ければ地獄』という試合ですよね。そこで一番、人間性が出ると思うんですよ。もうテンションが上がりすぎちゃって、気合いが入りすぎてピリピリする人。重圧に負けて萎縮しちゃう人。ミスを恐れてプレーできなくなる人。いつも通りやっちゃう人。いつも以上にやっちゃう人……。いっぱい出てくると思うんです」

　オーストラリア、サウジアラビアとのライバル対決は、おそらく日本にとっては２７名の選手の総合力が問われるシリーズとなるだろう。ピッチの中で、ピッチの外で、もしかしたらスタンドから、小林にはどこからでも果たせる仕事があるはずだ。

「もちろん、それがあると思われているから代表に呼ばれているわけで、自分はその責任を果たし、どんな状況になっても自分の最大限を出す。俺が一番大事だと思っているのは、平常心を保つこと。代表に対して文句を言う人がいて、賞賛する人がいて、応援してくれる人もいて、いろいろな人がいて、いろいろなことが起こるんです。

　今回の代表メンバーも、『なんでこの選手が選ばれて、あの選手が呼ばれないんだ』と言われたりするでしょう。そういう目に見えない敵とかプレッシャーみたいなものに動じず、本当にいつも通り、『毎朝、起きて歯磨きをする』かのように、みんな当たり前のように集まって、当たり前のようにプレーをして、当たり前のように勝つ。そのためには平常心が必要。『よっしゃ、やってやる』という熱い気持ちも必要なんだけれど、それは勝手に高まる試合だから、一番大事なのは平常心。それを保てる選手が、ピッチで結果を出すと俺は思います」