メダル獲得に安堵も課題は多く… 世界陸上で直面した日本の厳しい現実

折山淑美

期待を背負って獲得したリレー銅メダル

世界陸上で日本代表は、「メダル3」「入賞2」の結果を残した。写真は男子400メートルリレーで銅メダルを獲得し、喜ぶアンカーの藤光(左)と3走の桐生 【写真は共同】

 8月13日に終了した陸上の世界選手権(イギリス・ロンドン)。日本は2003年パリ大会の4個に次ぐ3個のメダルを獲得し(2001年エドモントン大会と同数)、入賞2という結果を残した。

 その中でも安堵(あんど)したのは、男子4×100メートルリレーの銅メダル獲得だった。昨年のリオデジャネイロ五輪では失格した米国にも先着する好走で、国別で世界歴代3位(当時)となる37秒60を出して銀メダルを獲得した種目。国内の注目度も高く、世間の人から見れば「メダルを取って当然」というような視線で見られていたからだ。

 予選は38秒21で全体の6位と伸びなかった。だが選手たちは、飯塚翔太(ミズノ)が「バトンパスはみんな失敗している。そこを修正すればまだ伸びしろはある」というように自信を持っていた。それでも米国と地元イギリスは予選から37秒7台を出して強さを見せつけ、ヨハン・ブレークが出なかったジャマイカも37秒95。実質的には4番手争いの位置でメダルは危ういかに見えた。

 だが決勝は、走りに伸びのなかった4走のケンブリッジ飛鳥(Nike)に変えてベテランの藤光謙司(ゼンリン)を起用。桐生祥秀(東洋大)が「藤光さんにも『今日は絶対に届くから(スタートを切る距離の)“足長”(爪先からかかとまでの長さ)を伸ばしてくれ』と言った」というように、各区間とも足長を伸ばす攻めのバトンをした。結局4走までに僅差の4位をキープしたことで、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)の途中棄権というアクシデントをものにし、4位の中国に0秒30差をつける3位を手にしたのだ。

厚くなった短距離の選手層

サニブラウンは男子100メートルで準決勝、同200で決勝進出。今大会の話題の中心となった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 決勝は昨年のリオ五輪から2人が替わったオーダー。日本の層の厚さを見せる結果だったが、初代表は1走の多田修平(関西学院大)だけで、あとは経験者だったことも攻めのバトンパスを成功させた大きな要因だった。

 さらに今回は藤光が“いぶし銀”とも言える代役での好走を見せただけではなく、走れなかった選手にはエースといえる立場になったサニブラウン・アブデル ハキーム(東京陸協)や、代表になれなかった山縣亮太(セイコーホールディングス)もいて、決勝を走れなかったケンブリッジや、リオで走れなかった高瀬慧(富士通)も悔しさをかみしめているはず。ライバルを見ても米国は相変わらず強く、イギリスも決勝で国別世界歴代3位の37秒47で優勝と力をつけてきているが、ボルトが引退するジャマイカはベテランのアサファ・パウエルが不調の上に、27歳のブレーク以下の若手が伸びてこず、大砲の数が減少しそうな状況だ。

 そんな中で価値があったのは、サニブラウンが200メートルでは03年大会の末續慎吾以来の決勝進出を果たして太股に痛みが出ながらも7位になっただけではなく、100メートルでも準決勝でのスタートのミスさえなければ確実に決勝へ行けたという、勝負強い走りを見せたことだ。その資質の高さには世界も注目するが、戦える姿を見せたことは他の日本選手にも大きなモチベーションにもなるはずだ。層の厚さが増してきた日本にとっては、追い風が吹いてきた大会になったといえる。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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