メダル獲得に安堵も課題は多く… 世界陸上で直面した日本の厳しい現実

折山淑美

競歩のメダル獲得に感じた逞しさ

競歩勢は、男子50キロでメダル2個を含む日本勢全員入賞という快挙。写真左から、銅メダルの小林、銀メダルの荒井、5位入賞の丸尾 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 また男子50キロ競歩が銀と銅を獲得して、新たな歴史を切り開いたのも大きな収穫だった。

 リオ五輪銅メダルの荒井広宙(自衛隊体育学校)は、世界記録保持者のヨアン・ディニズ(フランス)の速い飛び出しにはあえて付いていかず、結果的には8分5秒差を付けられる2位。しかし、メダルを取らなければいけないという重圧もあった上に2位集団の中ではマークされる立場でありながらも、冷静に勝機を見つけて勝負した精神力は逞しかった。

 50キロ挑戦が2回目の小林快(ビックカメラ)も、荒井のサポートを受けるチームプレーの中で冷静に歩き、自己記録を更新して3位という素晴らしい結果。さらに3回目の50キロで持ちタイムは3時間49分17秒と少し格下と見られていた丸尾知司(愛知製鋼)も、今村文男コーチの指示通りに入賞圏内とみた3時間45分を目指してマイペースで歩き、終盤にはラップタイムを上げて3時間43分03秒の大幅な自己記録更新で5位と、一気に成長。若手2人の好成績と自信をつけたのが大きな収穫だった。

 だがこれまでの世界大会では07年世界選手権の50キロ2位が最高で、他は飛び出してつぶれるレースを繰り返していたディニズが、ここにきて世界記録保持者としての実力を発揮したことは驚きであり、警戒すべきことだ。さらに今回は15年世界選手権と16年リオ五輪を連勝したマテイ・トート(スロバキア)が生体パスポートの異常値による暫定的出場停止処分で出場できず、リオ五輪2位を含めた世界大会では金1銀4銅1を獲得しているジャレド・タレント(オーストラリア)も直前のけがで欠場した状態。今回の快挙とは裏腹に、これからのメダル争いには厳しい現実があるのも確かだ。

 男子20キロでは終盤までトップ集団にいた藤澤勇(ALSOK)が、最後は振り落とされて11位。海外自己ベストの1時間20分05秒で歩いたのは評価できるが、持ちタイムを世界大会の結果に反映できないという結果は変わらずに終わった。日本チームもまだまだ上を目指さなければいけない状態だといえる。

結果を出せずに終わった種目も……

女子1万メートルで10位となった鈴木(写真中央)。女子は鈴木の成績が最高で、ひと桁順位はなかった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ただ、メダルと入賞が男子短距離と50キロ競歩のみだったという現実も、素直に認めなければいけないところだ。入賞を期待されたマラソンは、男子は川内優輝(埼玉県庁)が8位に3秒差の9位で、中本健太郎(安川電機)が10位と、ベテランの頑張りに何とか救われた結果だった。だが女子は清田真央(スズキ浜松AC)の16位が最高と勝負ができず、11大会ぶりに入賞を逃す結果となった。

 また女子1万メートルの鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)も入賞圏内の力は持っていたが、3600メートルからの仕掛けに付くのが少し遅れ、後半の5000メートルは15分17秒で走りながらも結果は10位と、わずかな展開の“あや”で入賞を逃した。ただ長距離に関しては、昨年11月に新たな体制での強化策が始まったばかり。その成果がどうでてくるのかを見守る段階でもある。

 他では入賞の可能性があると見られていた男子棒高跳びでは、荻田大樹(ミズノ)は5メートル45で18位。山本聖途(トヨタ自動車)は5メートル30で26位と結果を出せずに終わった。国際陸上競技連盟のインビテーションで出場した男子やり投げの新井涼平(スズキ浜松AC)も、今季の不調がそのまま出てしまう結果で77メートル38で予選敗退となった。

ハードル勢の健闘、全体的に振るわなかった女子

 男子はフル出場となり、女子はインビテーションで2人が出場したハードル勢は、男子の110メートルハードルで増野元太(ヤマダ電機)が予選第2組で4位。400メートルハードルは安部孝駿(デサントTC)が予選第1組で2位。女子の100メートルハードルは木村文子(エディオン)が予選第2組で4位と、3人が着順で準決勝進出を果たした。準決勝は増野が全体の20位で、安部は14位、木村は23位と世界の厳しさを見せつけられたが、ともに第一歩となる成果は挙げられた。

 ただ女子はインビテーションの4人を含めて代表は13人で、長距離を除くトラック&フィールドは5人。そのうち標準記録突破者はやり投げの海老原有希(スズキ浜松AC)だけと極めて寂しい状況。女子全体の最高順位は1万メートルの鈴木の10位でひと桁順位はないだけに、強化策の検討も必要だ。今大会は課題も多く残る結果になった。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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