sportsnavi

日本リレーが「走力」で勝つ時代へ
世界陸上初のメダル獲得が示した未来

世界選手権で初のメダル獲得

男子400メートルリレーで日本が銅メダルを獲得し、記念写真に納まる(左から)多田、桐生、サニブラウン、ケンブリッジ、飯塚、藤光=ロンドン
男子400メートルリレーで日本が銅メダルを獲得し、記念写真に納まる(左から)多田、桐生、サニブラウン、ケンブリッジ、飯塚、藤光=ロンドン【共同】

 大外の9レーンを飛び込んで来た桐生祥秀(東洋大)からバトンを受け取り、スピードそのままに3位争いで藤光謙司(ゼンリン)が走り出す。

 まさか! 内側の5レーンでわずか前を走るジャマイカのウサイン・ボルトが突然左脚を引きずり、苦痛の表情で速度を緩めて……、そして倒れ込んだ。

 思わぬ形で偉大な時代が終わりを告げようとする中で、藤光は滑らかな重心移動で突き進み、男子400メートルリレー銅メダルのゴールに駆け込んだ。タイムは38秒04だった。


 藤光と桐生が抱き合う。1走の多田修平(関西学院大)と2走の飯塚翔太(ミズノ)が加わり、ハイタッチ。スタンドからケンブリッジ飛鳥(Nike)とサニブラウン・ハキーム(東京陸協)も駆け付け、6人が肩を組んで記念撮影する姿は晴れやかだった。世界選手権で初のメダル獲得をたたえ合った。

総合力の向上 群雄割拠でレベルアップ

桐生(手前)、藤光(左)と喜ぶ飯塚。各選手が持ち味を発揮した
桐生(手前)、藤光(左)と喜ぶ飯塚。各選手が持ち味を発揮した【写真は共同】

 予選はアンカーを走ったが、6月の日本選手権での故障が尾を引いたケンブリッジと、“ボルト超え”の大活躍で右太もも裏に負担のかかったサニブラウンは走らなかった。ボルトの悲劇による“棚ボタ”はあったが、有力なメンバーを欠いても表彰台に上れたのは、日本の底力、総合力のなせる技だった。


 多田は、予選では満足いかない走りだったが、「スタートが結構決まって、予選よりもいい走りができた」と、会心の走りで軽快なリズムを奏でた。

 安定したパスワークでバトンを受け取った飯塚はそのリズムも引き継ぎ、スピードに乗った。「日本の走る力というのをもう一回世界にアピールできる」(飯塚)。1、2走の働きは大きかった。

 桐生も良かった。内側から出て来るイギリス、米国、ジャマイカに負けない力強さで、個人種目の100メートルに出られなかった悔しさをぶつけた。

 藤光は急きょの起用にも対応するいぶし銀の仕事をやり切った。「去年(リオデジャネイロ五輪で)走れなかった分の思いもあった。ケンブリッジの分、ハキームの分まで走りたいと思っていた」


 リオ五輪銀メダルメンバーは帰国後のフィーバーの中で「次は金メダルを目指す。一人一人がもう一歩走力を上げれば、37秒3台が出せる」と、口々に語った。その1年前に比べ、今季の日本は二つの点で一歩前進している。


 まず、100メートルで9秒台を目指せる素材が増え、4人の枠では収まり切らなくなった。さらには、シーズンベストの平均も明確に向上している。今季ベストの10秒0台が6人もいて、量も質もアップした。


 今回のメンバーには、リオ五輪の山縣亮太(セイコーホールディングス)が3月に10秒06を出しながら右足首の故障をきっかけに代表落ちをし、2回も10秒04を出した桐生も100メートルでの出場を果たせなかったほどの精鋭が集った。

“10秒00の壁”を巡るせめぎ合いの中で互いにレベルを高め合い、それを乗り越えようと新たなタレントが出現する。そんな群雄割拠の現象が、2017年の日本で湧き起こっている。それはまた、日本の“匠の技”であるバトンワークに頼るだけでなく、走力自体で勝負できる新時代がやってきつつあるということでもある。

高野祐太
1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。