【ボクシング】山中を狂わせた“倒すため”の闘争本能 進退は保留 続行ならネリとの再戦優先

船橋真二郎

日本記録タイとなる世界王座13連続防衛戦に臨んだ山中(右)は、挑戦者・ネリの前に4回TKO負けとなった 【写真は共同】

 プロボクシングのWBC世界バンタム級タイトルマッチは15日、京都の島津アリーナ京都で行われ、王者の山中慎介(帝拳)が同級1位のルイス・ネリ(メキシコ)に4回2分29秒TKO負けを喫した。2011年11月の獲得以来、5年9カ月に渡って12度防衛してきた王座を明け渡す結果となった。期待された具志堅用高氏の世界王座連続防衛の日本記録13に並ぶことはかなわなかった。

ネリの連打につかまりタオル投入

「シンスケ・コール」が鳴り響く中、山中はリングを降り、控え室へと戻っていった 【写真は共同】

 一発の威力では山中。連打の回転力ではネリ。

 そのような構図で捉えられていたサウスポー対決。最も警戒していたネリの連打に山中は捕まった。フィニッシュラウンドとなった4回。山中は挑戦者が思いきりよく振ってくる左右のフックを受ける格好になった。ラウンド中盤。左から返した右フックでバランスを崩したところにさらに右を追撃され、山中はロープ際まで後退する。ここは体を入れ替えて逃れたが、22歳の若きメキシカンの攻勢は続いた。

 迎えたラウンド終盤。ネリの放り込んできた左ロングフックが肩越しから直撃。バランスを失った山中はまたもロープ際まで後退した。連打にさらされながら、山中も頼みの左を何度も打ち返す。懸命のダッキングで決定打は許さなかったものの、ロープに体をもたせかける山中の体勢は悪く、左は空を切った。ネリの連打の圧力に押され、ロープ際に釘づけになった状態での攻防がひとしきり続くと、大和心トレーナーが棄権の意思を示すタオルを投げ入れながらリングに飛び込んで山中を抱きかかえ、レフェリーが試合終了を宣した。

 しばらく呆然とした表情で結果を受け止められない様子の山中だったが、こみあげてくる涙を抑えることができなかった。リングの中央に進み、2階席までぎっしり埋まった四方の観客に向かって気丈に礼をする山中の首には、いつの間にか、入場時に提げていた長男・豪祐くんが手作りしたWBCのメダルがかけられていた。赤いガウンを着て、フードで顔をすっぽりと覆い、リングを降りていく山中を「シンスケ・コール」が追いかけた――。

ポイントの“足”を使えなかった

「ビデオを見てみないと分からないですけど、4回の(最後の)場面は自分としては(パンチを)もらってなかったですし、効いてもいなかったんですけど、(同じ場所に)止まり過ぎて、セコンドを心配させてしまったことが原因なので」

 控え室で会見に応じた山中は「まだやれるという思いはありました」と吐露したが、タオル投入のタイミングは置いておいて、なぜ注意を払っていたはずの連打を序盤から許してしまったのだろうか。

 ネリに2発、3発と連打をつながせないために山中と大和トレーナーが試合前、ポイントに挙げていたのが“足”だった。つまりフットワークを駆使し、同じポジションにとどまらないこと。だが、山中がこの“足”を使うことは、ほとんどなかったと言っていい。
 初回は山中の鋭い右ジャブが目立った。ジャブもロングレンジをキープすることで、ネリのフック、アッパー系中心の連打を出させないためには有効だが、それも“足”と連動していなければ機能はしない。ネリに得意の形を作らせない以上に恐らく山中の意識を占めていたのが自身の左をいかに打ち込むか。山中は早々に手応えをつかんでいたからだ。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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