山中慎介、ルーツとなる京都でV10 2度ダウンも最後まで示した攻撃本能

判定で完勝もハラハラする展開に

WBCバンタム級王者・山中(右)は挑戦者・ソリスを下し10度目の防衛に成功した 【写真は共同】

 WBC世界バンタム級チャンピオン(帝拳)がリボリオ・ソリス(ベネズエラ)を下し、10度目のタイトル防衛に成功。日本人王者では13度の具志堅用高、11度の内山高志、10度の長谷川穂積に続き、4人目となる二桁防衛である。

 スコアはジャッジ全員が117−107で安泰だったが、それにしてもこれほどハラハラさせられるとは思わなかった。山中が「ゴッド・レフト」で倒すシーンなら見慣れている。が、この日は逆にチャンピオンも2度倒れたのである。

 京都の体育館に詰めかけた6000人の観衆が肝を冷やしたのは3ラウンド。挑戦者ソリスの踏み込んで放つ右ブローで山中が尻もちをついた。ここは苦笑いをして立ち上がった山中。勢いづいて出てくるソリスに左ストレートをお見舞いするが、ラウンド終盤、その左の打ち終わりに右ストレートを浴びて再びダウン。

 これより先、2ラウンドに山中は先制のダウンをマークしていた。右ストレートで入ってくるソリスに自らの右フックを引っかけるようにして倒したもので、このパンチは試合の立ち上がりから相手の攻めを読んだ上でうまく合わせていた。「(ダウンを奪われたのは)正直、油断したところはあった」と山中は言う。うまく合うものだから、かえって隙が生じたのか、山中が喫した最初のダウンは同じパターンで、ソリスの右が先に着弾した結果だった。

「ソリスも前に来てくれるので、こちらのパンチが当たる。それでちょっと距離が近くなっていた」と振り返ったのは担当の大和心トレーナーである。
「ダウンはダメージを引きずるものではありませんでしたけど悔しいですね」「応援に来てくれた人たちにもっと強い姿を見せたかった。悔しいです」。偉業を達成したにもかかわらず、会見の端々に「悔しい」の言葉があった。チャンピオンの負けん気の強さは強烈だ。

強気発言のソリスも認める王者の強さ

高校時代を過ごしたルーツでもある京都での試合で、山中自身も張り切っていた 【写真は共同】

「応援ありがとうございますというよりも、2度もダウンして、いいところを見せられずすみませんでした」。山中はファンに詫びた。今回、節目のV10戦の舞台となった京都は、山中が高校時代を過ごした地。滋賀県の自宅から南京都高校(現京都廣学館高校)へと通い、ボクシング部で腕を磨いた。現在のサウスポー・スタイルも同校の故・武元前川監督に矯正された。いわばボクサー山中のルーツの土地である。「武元先生は最初にボクシングを教えてくれた人。その時、少しは自分の才能を感じてくれていたと思うし、それが開花していまの位置まで来たんやと思います。ソリス戦ではさらに強くなった姿を見せて、喜んでもらいたい」。凱旋試合にチャンピオンは大いに張り切っていた。

 10人目の刺客ソリスは過去に2度来日しており、河野公平(ワタナベ)、亀田大毅(亀田)の世界チャンピオンに勝った選手。十分な実績だが、山中と戦うまではどちらかといえばそのキャラクターが話題になることのほうが多かった。とりわけ亀田戦の計量失格は有名だ。スーパーフライ級の王者対決と注目された一番、体重を落とせなかったソリスは早々に再計量を諦めてコーラを飲んでしまった。それでも、秤の上でタイトルを失いながら試合本番は亀田にしっかり勝利し、大喜びしていたものだった。山中戦の計量ではそっと秤に乗って200グラム・アンダーでクリア。強気発言は相変わらずで、「山中はガラスのアゴだ」と息巻いた。実際に山中からダウンを奪ってしてやったりだったろうが、あとで「(ダウンを奪って)倒しにいこうとしたが、うまくかわされた」とチャンピオンの強さを認めることとなる。

最後までKO勝利を狙っていった山中

 試合は、3ラウンドのピンチをしのいだ山中が徐々に立て直していった。4ラウンド、左ストレートでソリスの動きを一瞬止めてみせると、中盤からは左のボディストレートも打ちだした。このパンチは、襲いかかる機会をうかがうソリスの動きをけん制する効果もある。脚を使いつつ、ためらいなく左ストレートを上下に飛ばし、山中がポイントを積み上げていく。8ラウンド終了後に発表された途中採点はチャンピオンがいずれも77−72で優勢。

 ソリスもめげない。ムキになって殴りつけるような右連打はケンカ・ファイトにも見えるが、距離が開けば山中の「ゴッド・レフト」対策に両ガードを徹底するなど、意外なクレバーさを持っていた。しかし山中はさらにその上を行き、左ストレートを打ち込むポイントをつかみつつあった。そして9ラウンド、両者が接近した際に山中の左の打ち下ろしが入り、ソリスはこの試合2度目のダウン。

 終盤の山中はKOの期待にこたえようとさらに左ストレートを繰り出した。チャンピオンの必殺強打も構わず向かっていったソリスは感心させたが、最終12ラウンドは左ストレートでガードを打ち破られ、鼻血を滴らせた。あと少し時間があれば、というところで試合終了。
「自分では、もうちょっと行こうという思いもあったんですが……」。控室で山中は言っていた。防衛戦で初めてダウンを喫した今回の一戦で、チャンピオンの試合に新たなスリルを見た思いもするが、この攻撃本能が山中の優れた資質である。それゆえ山中の試合はいつも面白い。
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