世界戦13試合で奪ったダウンは合計30回! データが証明する「神の左」山中慎介の凄み

原功

12度目の防衛戦でも「神の左」で5度のダウンを奪ったWBC世界バンタム級王者の山中慎介 【写真は共同】

 起き上がっては必死の形相で向かってくる挑戦者。そこに打ち込まれる左ストレート。ダウン、ダウン、またダウン――3月2日、東京・両国国技館で行われたWBC世界バンタム級タイトルマッチ、王者の山中慎介(34=帝拳)は7回TKO勝ちで6位のカルロス・カールソン(26=メキシコ)を退け12度目の防衛を果たした。予想どおりの結果ではあったが、実に5回のダウンを奪うという派手な内容だった。これで山中は戴冠試合を含めた13度の世界戦で合計30回のダウンを奪ったことになる。
 そのほとんどが「神の左」と称される左ストレートである点も興味深いところだ。

1試合平均2.3という驚異のダウン奪取率

<世界戦の対戦相手と出身国>      <結果>  <奪ったダウン数>
11.11  エスキベル(メキシコ)     11回TKO   2   王座獲得
12.4 ※ダルチニャン(アルメニア)   12回判定    0   防衛
12.11 ※ロハス(メキシコ)       7回KO     1   防衛
13.4 ※ツニャカオ(フィリピン)   12回TKO    3   防衛
13.8  ニエベス(プエルトリコ)    1回KO     1   防衛
13.11  ゲバラ(メキシコ)       9回KO     3   防衛
14.4  ジャモエ(ベルギー)      9回TKO    4   防衛
14.10 ※スリヤン(タイ)        12回判定    3   防衛
15.4  サンティリャン(アルゼンチン) 7回KO     2   防衛
15.9 ※モレノ(パナマ)        12回判定    0   防衛
16.3 ※ソリス(ベネズエラ)      12回判定    2   防衛
16.9 ※モレノ(パナマ)        7回TKO    4   防衛
17.3  カールソン(メキシコ)     7回TKO    5   防衛
※は元世界王者

世界戦13試合で奪ったダウンは合計30回という驚異のダウン奪取率 【赤坂直人/スポーツナビ】

 山中のV12は、元WBAライト・フライ級王者の具志堅用高氏が76年〜81年にかけて樹立した「13度防衛」に次ぎ、日本のジム所属選手としては2番目の世界王座防衛記録となる。具志堅氏は戴冠試合と王座を失った試合を含め15度の世界戦(14勝9KO1敗)を経験しているが、これらの試合で奪ったダウンの合計数は21だった。
 1試合平均のダウン奪取率は1.4となる。戦闘スタイルや階級、さらにはルールや対戦相手など諸条件が異なるため一様に比較することはできないものの、山中が世界戦で奪った30回というダウン数と2.3というダウン奪取率がいかに突出した数字であるかが分かるだろう。ちなみに同じバンタム級のライバル王者、ジェイミー・マクドネル(英)はWBA王座を5度防衛中だが、戴冠試合を含めた6試合で奪ったダウンは2回、ダウン奪取率は0.33である。

 一方、今回のカールソンがそうだったように、倒された相手がそのたびに立ち上がってきたという事実を指して「詰めが甘い」という声もある。しかし、トマス・ロハス(メキシコ)戦のように一撃で仕留めた試合もあり、これは必ずしも的を射た指摘とはいえまい。むしろ、ホセ・ニエベス(プエルトリコ)やアルベルト・ゲバラ(メキシコ)戦のように、体重が乗り切らない不十分なパンチでも相手を吹き飛ばしてしまった事実の方に目を向けるべきではないだろうか。

 さらに細かく見てみると、山中は13度の世界戦(全勝9KO)のうち11試合でダウンを奪っている。ちなみに強打に耐え抜いた二者のうちのひとり、WBA王座を12度防衛した実績を持つ元王者のアンセルモ・モレノ(パナマ)は「打たれないことには絶対の自信がある」と話していたが、再戦では左を被弾して4度もキャンバスを這ったあげくキャリア初のKO(TKO)負けを喫した。

【赤坂直人/スポーツナビ】

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著者プロフィール

1959年、埼玉県深谷市生まれ。82年にベースボール・マガジン社入社。以来、「ボクシング・マガジン」の編集に携わり、88年から11年間、同誌編集長を務める。01年にフリーランスになり、WOWOW「エキサイトマッチ」の構成などを担当。専門サイト「ボクシングモバイル」の編集長も務めている。

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