絶景を楽しめるFC今治の本拠地が完成へ オープン直前の「夢スタ」内覧会リポート

宇都宮徹壱

夢スタとチュスタをつなぐもの

メディア向けに夢スタの魅力を紹介する岡田オーナー。さりげなくネームプレートの売り込みも 【宇都宮徹壱】

 すでに報じられているように、夢スタは自治体の力や税金を使うことなく、クラブが自前で建てられた。岡田オーナーも「これだけ小さな都市でもスタジアムが作れるという、最初の事例となったのではないでしょうか」と胸を張る。確かに、人口約16万人の今治市にJ3基準のスタジアムが、しかも自治体に頼らずに作られたことの意義は大きい。とはいえ夢スタが、鳥取のチュスタという先行事例に後押しされた(であろう)事実については留意すべきである。実際、夢スタとチュスタとの共通点は少なくない。両方とも自治体の力をほとんど借りなかったし、土地を無償で提供されているし、建設費も同じくらいだ(夢スタが約3億円、チュスタが約4億円)。

 もっともスタジアム建設の経緯については、両者は大きく異なる。今治はJ3昇格の条件を満たすためであったが、鳥取の場合は鳥取市内にJ2要件を満たす、とりぎんバードスタジアムをすでに有していた。にもかかわらず、新たに7,390人収容のスタジアムを作ったのはなぜか。それはクラブの発祥の地であり、鳥取市よりも人口が多い米子市でも試合を行いたいという切なる願いがあったからだ。だが、せっかく完成したものの「J2基準のスペックを満たしていない」として、クラブの再三の要請にもかかわらず13年は公式戦の開催は見送られた。そして翌14年に鳥取はJ3に降格し、チュスタでのホームゲーム開催が認められたのは、何とも皮肉な話である(今季も3試合開催予定)。

 スタジアムのネーミングの由来となった岡野GMによれば、岡田オーナーはネームプレートによる企業・一般からの寄付に深い関心を抱いていたという。鳥取のように1億4000万円もの寄付金を集めることができれば、建設費のほぼ半分をカバーすることができるのだから当然だろう。現在、今治では4種類のプレートによる寄付を受け付けており、それぞれの金額は50万円、30万円、10万円、3万円となっている。岡田オーナーは取材陣に対して「スタンドの座席椅子やスタジアムにWiFiを入れるには、もう少し(寄付が)ほしい」と本音を漏らしていた。

 最後に、少し余談めいた話を。3年前にスコットランドの名門として知られる、グラスゴー・レンジャーズのアイブロックス・スタジアムを訪れる機会があった。このスタジアムにも、レンガ製のネームプレートが壁面に飾ってあったのだが、ところどころ一輪の花が挿してあることに気付いた。おそらくは故人を偲んでのものであろう。いずれ天に召されても、自分の名前はスタジアムに残る──。サポーターにとって、これほどロイヤリティーをかき立てられる特典はない。どうすれば今治のファンは、ネームプレートに自分の名前を残そうと思うのか。クラブに何がしかのヒントとなれば幸いである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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