17年のキーワードは「脱・岡田武史」? FC今治の方針発表会で明らかになったこと

宇都宮徹壱

かつて今治を苦しめた選手たちが新加入

今季の新加入選手の紹介。外国人選手2名を除くと全員が中盤の選手で、それほど高さもない 【宇都宮徹壱】

 岡田オーナーのプレゼンののち、オフィシャルパートナーとクラブスポンサー紹介に続いて、新加入選手と新スタッフの紹介が行われた。現時点での新加入選手は、以下の7名(カッコ内は前所属)。玉城俊吾(ツエーゲン金沢)、スティーブン・レンハート(サンノゼ・アースクエイクス=MLS)、三田尚希(ラインメール青森)、楠美圭史(東京ヴェルディ)、小澤司(鈴鹿アンリミテッドFC)、可児壮隆(川崎フロンターレ)、マチェイ・クラコビャック(スタル・ジェシュフ=ポーランド4部)。私が興味を抱いたのは、J1経験者やポーランド人GKではなく、玉城、三田、そして小澤であった。

 3名に共通していたのは、いずれも前所属クラブで今治と対戦し、そこでインパクトを残していたことである。玉城は15年の天皇杯1回戦で対戦した際に、先制ゴールと2点目を挙げている。三田は同年の全社2回戦で、自らドリブルで持ち込んで決勝ゴールに結びつく決定的な仕事をしている(ちなみに青森山田高時代には、柴崎岳らとプレーしていた)。そして小澤は、昨年の地域CL決勝ラウンドで、得意のFKからアシストを記録している。「昨日の敵は今日の友」という言葉が浮かんできそうな選手獲得だが、一方で「こんなに中盤の選手ばかり集めて大丈夫?」という疑念も湧いたことも付け加えておく。

 このうち28歳の新加入選手、小澤に話を聞くことができた。まず、古巣に対しては「鈴鹿には感謝しています。水戸(ホーリーホック)を契約満了になった自分を拾ってくれましたから。ただ、鈴鹿は2年までと最初から決めていました」。今治の評価に関しては「チームコンセプトにフィットしていることと、セットプレーやチャンスメークでの技術の部分ですかね」。最後に、今季の目標を聞くと「JFLは30試合あるので、ゴールとアシスト含めて20得点には絡みたい。あと、年齢でいえば上から3番目なので、チームのまとめ役になれるよう心掛けたいです」という心強い答えが返ってきた。

 続いて新スタッフとして、小野剛氏と藤原寿徳氏というビッグネームが紹介された。日本代表や杭州で参謀を務めていた小野氏は育成コーチに、鹿島アントラーズやアンダーの日本代表での指導経験を持つ藤原氏はトップチームのGKコーチに就任。彼らを引っ張ってきたのは、もちろん岡田オーナーだ。小野氏には育成のみならず「クラブからいいコーチを輩出するような指導を」、藤原氏には「メソッドのGKにおける原則を」それぞれ求めたいとしている。なお、この日のサプライズとして、チームアドバイサーに元FC岐阜監督のラモス瑠偉氏が就任することも発表された。

新スタジアムの名称は「夢スタ」に決定

新スタジアムの名称は「ありがとうサービス.夢スタジアム」。オープンまでは各地を転戦する 【宇都宮徹壱】

 最後は、岡田オーナーと矢野将文社長との絶妙なやりとりで、今年8月にオープン予定の新スタジアムについての説明があった。新スタジアムの名称は、パートナー企業の名前を冠して「ありがとうサービス.夢スタジアム(夢スタ)」。ピッチのバックスタンド側に設置される、個人ネームプレートの販売の告知もあった。プレートのサイズは縦90ミリの幅210ミリで、クラブへのメッセージに(本人が希望すれば)氏名も入れられる。16文字まで入れることができて3万円。クラブの公式サイトによれば「スタジアムが存続する限り、半永久的に設置します」とあるので、希望者は応募してみてはいかがだろうか。

 なお、四国リーグ時代は人工芝の試合会場を使用していた今治だが、JFLではそうはいかない。矢野社長によれば、新スタジアムが完成するまでの間は、西条、砥部、そして県外の尾道(びんご運動公園球技場)での開催が予定されているという。J3に昇格するためには、ライセンスや成績のみならず、ホームゲーム平均2000人以上を確保しなければならない。当然、今治市以外でのホームゲーム開催では、入場者数で苦戦を強いられることだろう。この点について岡田オーナーは「(新スタジアムが完成する)8月以降を5000人としたら、それまでを1000から1500くらいで達成できる」と楽観的な意見を述べていたが、「集客のための施策を打つのではなく、結果として越えなければならない。それができないのであれば、もう1年(JFLに)とどまるしかない」と付け加えることも忘れなかった。

 以上、17年の方針発表会における注目点をまとめてみた。およそ1時間にわたるプレゼンの内容は、それぞれ興味深いものであったが、上記以外で個人的に注目した点について最後に指摘しておく。それはすなわち「岡田オーナーからの権限委譲は確実に進んでいる」ということだ。トップチームの現場については、オプティマイゼーション事業本部の高司裕也本部長と吉武博文監督。そして経営面については、矢野社長にかなりの部分で委ねられているように感じられた。彼らだけでなく、他のスタッフにも「自分がやらねば」という自覚のようなものが、昨年以上にひしひしと伝わってくる。

 発表会の囲み取材で、「リソースもないのに、僕がどんどん夢を広げていくので、みんなが大騒ぎになる」と苦笑いしながら語っていた岡田オーナー。その無茶ぶりに鍛えられた矢野社長以下のスタッフも、そろそろ主体性を持って仕事に取り組む時期を迎えている。一方の岡田オーナーも、人間教育や地方創生といったライフワークに本腰を入れたいだろうし、(非常勤とはいえ)日本サッカー協会副会長としての責務もある。JFLクラブとなった今季は、岡田オーナーに依存する状態からの脱却を意識する、よいタイミングであろう。ゆえに個人的には、今年のFC今治は「脱・岡田武史」がキーワードとなるのではないかと見ている。そうした仮説も抱きつつ、今季も今治の戦いをリポートしていきたい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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