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スピード建設はなぜ可能となったのか?
行政側から見た今治の新スタジアム計画

スタジアムの輪郭も土台も見当たらないけれど

スタジアム建設予定地の近くにある商業施設でファンと交流するFC今治の選手たち。今季は首位を独走中
スタジアム建設予定地の近くにある商業施設でファンと交流するFC今治の選手たち。今季は首位を独走中【宇都宮徹壱】

「ここに5000人収容のスタジアムが建つんですよ」──2月19日、FC今治の方針発表会が行われたあと、スタジアムの建設予定地を見渡しながら岡田武史オーナーはそう語った。あれから5カ月。再び建設予定地を訪れてみると、スタジアムの輪郭はもとより土台さえも見当たらず、いささかの落胆を禁じ得なかった。そんな私の表情を察したのだろう。同行してくれた今治.夢スポーツの矢野将文社長は、ここまでの作業がいかに大変なものだったのか、実感を込めて説明してくれた。


「以前、来ていただいた時には、周囲には木がたくさん残っていたと思います。伐採後に根をユンボ(油圧ショベル)で引き抜くのは、とても骨が折れる作業なんですね。ですから『ようやくここまで来たか』というのが、私の率直な感想です」


 岡田オーナーの「腹心」とでも言うべき矢野社長が、「ようやくここまで来たか」と感慨に浸るのには、当人のユニークな経歴が少なからず影響している。東京大学工学部で資源工学を学び、大学院修了後にゴールドマン・サックスに入社。2008年のリーマン・ショックの影響で退社を余儀なくされると、故郷の愛媛に戻って愛媛大学で林業を学び直した(ユンボを使って山中に道を作る実習も経験している)。そしてさまざまな模索の日々を経て、14年に岡田オーナーと運命的な出会いを果たし、今では今治.夢スポーツの社長として猛烈に働いている。つくづく、人の出会いとは不思議なものだと思う。


 さて、FC今治である。四国リーグは6月19日の試合を最後に中断期間に入っており、今治は依然として首位をキープ。2位高知ユナイテッドSCとは2ポイント差をつけている(高知は1試合多く消化)。残り4試合の中には高知とのアウェーでの直接対決も残しており、決して楽観できる状況ではない。しかし、このまま今治がフィニッシュして、全国地域リーグ決勝大会(今年から『全国地域チャンピオンズリーグ』と改名)に駒を進める可能性は非常に高いと見てよいだろう。


 そうした中、私が久々に今治を訪れたのは、来年夏にオープン予定のJ3仕様の新スタジアムに関して、プロジェクトのキーパーソンから話を聞くのが主目的であった。もっとも前出の矢野社長は、スタジアムに関して「私のほうから特にお話することはありません」とのこと。その任にふさわしいひとりが、今治市の長野和幸副市長であるという。それでは行政側は、岡田オーナーの掲げるプロジェクトに対し、どのような思いから関わるようになったのだろうか。本稿では長野副市長の言葉を引用しながら、このプロジェクトの過程を振り返ることにしたい。

スタジアムができる今治新都市の概要

今回の取材に応じてくれた長野和幸副市長。今治新都市は第1地区と第2地区の2カ所に分かれている
今回の取材に応じてくれた長野和幸副市長。今治新都市は第1地区と第2地区の2カ所に分かれている【宇都宮徹壱】

「私はもともと新都市整備事業というところの担当部長をしておりましてね。今治西部丘陵公園、通称『しまなみアースランド』に、環境問題について体験学習ができる『今治自然塾』という施設を作ったときに、岡田さんに何度か現場に来ていただいたんです。今治自然塾は11年にオープンして、北海道にある富良野自然塾がモデルになっているんですが、そこでインストラクターをされていた岡田さんからもアドバイスをいただいておりました。私が岡田さんと最初にお話したのは、その時でしたね」


 長野副市長は1971年に今治市役所に入庁後、産業部、建設部、水道部などの課長や部長を歴任し、06年に新都市調整部長として今治新都市に関わるようになる。発言の中にある、しまなみアースランドは新都市の一角にある施設で、そこで岡田オーナーとのファーストコンタクトがあったという。ひとしきり雑談が終わると、副市長は壁に貼られた今治市の地図を指差しながら、新都市の概要について説明を始めた。


「今治新都市は総面積が150ヘクタール。第1地区と第2地区の2カ所に分かれています。先ほどお話した、しまなみアースランドがあるのが北側の第2地区。そして現在建設中のスタジアムやイオンモールがあるのが南側の第1地区。車だと5分くらいの距離ですかね。もともとこの周辺は原野だったんですが、今治・尾道間のしまなみ海道が開通したことで、延長線上にあるこの地域を産業や商業、さらには学園都市や住宅など多様な機能を備えた複合都市とすることを目的に、02年に事業がスタートしました」


 今治新都市の名前が、一部のサッカーファンの間で初めて語られるようになったのは13年のことである。ここにJ1仕様のスタジアムを建設し、愛媛FCのホームスタジアムとすることを中村時広愛媛県知事が提案。愛媛FCサポーターの間でちょっとした騒ぎになったことがあった。愛媛のスタジアム問題を取材した際、個人的に気になっていたのだが、今治側はこの提案をどう受け止めていたのだろうか。


「来年、愛媛で国体があるわけですが、ニンスタ(ニンジニアスタジアム)の改修を国体に絞ったものにするのか、それともJ1の試合にも対応するのか、という議論が県のほうであったようです。その中で『では、他の場所にサッカースタジアムを作ったらどうなるか』という話の中で、今治新都市のスポーツパークが候補として挙がったんじゃないですかね。もちろん(今治)市のほうでも検討はしました。その結果、全県をホームとしているチームが東予にある人口16万5000人の自治体でホームゲームを行うのは難しい、という判断になりました」

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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