五輪メダルメンバーの江原騎士 転機は、急きょ出場した世界水泳だった

田坂友暁
 水泳の世界選手権(以下、世界水泳)が7月14日、ハンガリーのブダペストで開幕する。競泳(23日〜30日開催)の日本代表に選ばれた、全25選手の大会への思い、これまでのストーリーとは。全25回連載の第15回は、自由形、フリーリレーメンバーの江原騎士(ないと/自衛隊)を紹介する。

■江原騎士を知る3つのポイント
・172センチ、60キロ。競泳選手としては小柄。
・2015年、急きょ世界水泳に招集される。リレーに出場し世界を経験。
・16年リオデジャネイロ五輪(以下、リオ五輪)では、日本の52年ぶりメダルに貢献。

試合での『実力発揮』に苦しんだ過去

2度目の世界水泳に臨む江原騎士(右から2人目)。リオ五輪では、4×200メートルフリーリレー代表として日本の52年ぶりメダル獲得に貢献した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 高校時代は、短距離の選手として活躍していた江原騎士。そのポテンシャルを山梨学院大時代に師事していた神田忠彦コーチが見いだし、中長距離にシフト。「練習は大好きなんです」という言葉通りに練習は真面目に、しかもレベルの高い記録でこなす。あとは、試合でその力を発揮すれば良いだけであった。

 ただ、江原はなかなか試合で『実力を発揮』することができなかった。練習はしっかり積んでいるはずなのに、不安が先に立ち、前半から必要以上に攻め過ぎてしまい、後半に失速する。そんなレースがいくつも続いていた。

急きょ出場した世界水泳 訪れた転機

小柄な体から繰り出される、躍動感ある泳ぎが江原の魅力だ 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 江原に転機が訪れたのは、2015年。7月のユニバーシアード(韓国・光洲)に選ばれていた江原は、急きょその直後に行われた世界水泳(ロシア・カザン)の4×200メートルフリーリレーメンバーとして招集を受けた。決勝には進めなかったが、引き継ぎタイムながら1分47秒64の好記録で役割を果たす。世界を肌で感じられたことは、江原にとって大きな経験となり、自信にもなった。

 そして翌年のリオ五輪代表選考会を兼ねた日本選手権で、1分46秒89の自己ベスト(当時)をマークしてリレーメンバー入り。本番で、ようやく『実力を発揮』することができたのである。一度ついた自信は揺るぐことはなく、五輪本番でもその力を存分にふるい、4×200メートルフリーリレーで日本にとって52年ぶりメダルとなる銅メダル獲得に大きく貢献した。

 172センチ、60キロと、体は大きくないが、それを逆に利用した躍動感ある泳ぎを武器に、世界と対峙(たいじ)する江原。体が小さくても世界を相手に戦える。結果がでなくても努力を続ければ、必ず花開くときがくる。江原はそれを証明してくれた。

「世界で結果を出せるような選手になりたいですし、もっともっと強くなりたい」

 一躍、日本の自由形中距離の中核までに成長した江原。「チームをけん引できるような存在になる」ために、2回目の世界水泳で、もう一段上のレベルに上がるための新たな一歩を踏み出す。
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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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