【ボクシング】パッキャオの“不当判定”に米国は紛糾 それでも抗えない限界論と二足のわらじ

杉浦大介

“終わった”と結論付けるのは時期尚早

リマッチは避けられないところだが、今後のパッキャオの選択が気になる 【Getty Images】

 プロ生活22年で実に68戦をこなしてきたフィリピンの英雄。その輝かしいキャリアがまさに最終盤に近づいているのは間違いあるまい。だからこそ、手痛い敗戦の後で、今後にどんな選択をするかには興味をそそられる。

 ホーンに苦杯を喫し、ファンから期待されたWBC、WBO世界スーパーライト級王者テレンス・クロフォードとの世代交代戦、パッキャオ本人が希望するフロイド・メイウェザー(ともに米国)との再戦実現は難しくなった。それでもホーン戦には再戦条項があり、行使すればリマッチ挙行は容易。今回の因縁もあり、再戦はどこで開催してもビッグビジネスになるだろう。

 今戦でも1000万ドル(約11億2400万円)以上のファイトマネーを受け取った後で、同等の報酬が望めるリターンマッチにパッキャオが興味を示さないとは考え難い。

 16年にはブラッドリー、ジェシー・バルガス(米国)といった実績ある選手たちからダウンを奪って下しているのだから、“パッキャオは終わった”と結論付けるのもおそらく早すぎる。雪辱の意志を胸にもう一度コンディションを作れば、タイトル奪還は可能に違いない。

“パッキャオの時代”終焉の形は?

フレディ・ローチ・トレーナーが心配する「二束のわらじ」は、選手として続けていくには厳しすぎるのは確かだろう 【Getty Images】

 ただ……

「(パッキャオと)長い話し合いをしなければいけない。フィリピン上院議員とファイターの二足のわらじは厳しすぎるのかもしれない」

 パッキャオのことを誰よりもよく知るフレディ・ローチ・トレーナーのそんな言葉は無視できない。昨年5月に母国の上院議員選挙に当選し、スケジュール調整が難しくなったことは容易に想像できる。加齢、歴戦の疲れに加え、政治活動のおかげで練習に集中するのが難しくなっているのは当然だろう。

 そんな状態で現役を続行するには、ボクシングは危険すぎる。このまま戦い続ければ、例えホーンに勝てたとしても、いずれ戦慄(せんりつ)的な結末に直面する可能性は高まる一方。“パッキャオの時代”を共に生きてきたボクシングファンで、英雄のそんな姿を見たい人はいないはずだ。

“傷つく前に退いて欲しい”と周囲がどんなに願っても、商品価値が残る限りはリングを離れないのがボクサーたち。パッキャオも例外ではないだろう。だとすれば、一時代の終わりを前に、私たちは遠からず辛いシーンを目撃することを予期しておかなければならない。

 パッキャオらしい奔放でダイナミックな動きが影を潜めたホーン戦。その途中に、終焉の予感を少なからず感じ、自然のうちに覚悟を決めたファンもあるいは多かったのではないだろうか。

2/2ページ

著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント